書店でアルバイトをしている少女の名前は本田アンリと言うらしい。


柚木が帽子を取って素顔を見せると、戸惑いながらも教えてくれた。


「時間がないから単刀直入に聞くけれど、あなたは若竹和男さんを知ってるよね?」


柚木さんの言葉にアンリの顔がサッと青ざめた。


視点が合わなくなり、せわしなく周囲を見回している。


「知りません」


その声が震えていて、嘘がつけない性格なのだとわかった。


「和男さんは亡くなった。そのことも知ってるから、そんなに青ざめてるんでしょ?」


「知りません!」


アンリは大声でそう言い、僕と柚木さんの間を通って黒い車へと早足に近づいていく。


「このままでいいの?」


後ろ姿のアンリへ向けてそう声をかける柚木さん。