それは一瞬のまばたきのようだった。


目を開けた瞬間違和感を覚えた僕は、目の前に立っている彼女を見た。


高校2年生の夏ころから付き合って1年目になる、彼女の安藤杏(アンドウ アン)だ。


杏は白地に赤いバラがあしらわれているワンピースを着ている。


少し派手な格好だが、杏の白い肌に赤いバラは恐ろしいほどによく似合っていた。


僕、江見夏男(エミ ナツオ)はしばらく自分の彼女に見とれてしまった。


しかしさっきの違和感は拭い取れず、僕は部屋の中を見回した。


時々訪れるラブホテルの一室だと言う事がわかった。


時計はなく、窓も閉め切られているため時間がわからない。


僕は一体いつからここにいたんだっけ?


まばたきをしている間に僕の記憶はどうかしてしまったかのように、不鮮明になっていた。


たしかに僕は杏と2人でここにいた。


それは覚えているのに、なぜだかその記憶自体がおぼろげなのだ。


でも、ラブホテルにいると言う事はここに来て2時間経過しているかいないか、と言う事だ。


僕は自分の体を見下ろした。


キチンと服を着ている。


杏も、立ったまま服を着ている。