「ね、なっち。いいでしょ?」


教科書をカバンに移し変えている私の目の前でにこにこと、お花でも飛ばしそうな笑顔で突っ立っている男は、今月何度目になるかも分からない【お願い】を口にした。


「まーたーー???」


「うん、またーーーー」


嫌そうに語尾を伸ばしてもくすくす笑って真似をしてくる。

私が嫌がっているとわかった上でこの態度。


「場所は?」


ため息をつきながら約束の場所を訪ねたけれど、ある程度の想像はつく。

この前は空き教室。その前は下駄箱。


「体育館の裏」


やっぱり王道のパターンか、なんて思いながら鞄のファスナーを閉めた。