痛むほどではなくでも緩む気配はなくしっかりと掴まれた手首。
この体勢はちょっと周りの目が気になるので、仕方なく再びイスに座った。

「理由をお聞きしても?」

彼は空いたもう片方の手でせっかくセットされていた髪をグシャグシャかき回しながら、質問で返してきた。

「カップラーメンなら待っていれば必ず食べ頃が来るじゃない。ちょっと早くても、ちょっと遅くても食べられないことはない。でも恋愛は違うよね?」

「ただ待っていてもダメですよ。ちゃんと最初に熱湯を注ぎ込まないと」

目から鱗というよりも、目そのものが落ちたんじゃないかってくらい大きく見開いて「ああ、なるほど!」と納得している。

「熱湯を注いだら、やっぱりその後は3分待つの?」

「そこはやっぱり相手の反応次第じゃないですか?」

手首を包む圧迫力が強まり、少しだけ彼の方に引き寄せられる。

「だったら、もっとわかりやすい反応して」

捕らえられているのか、すがられているのか、わからなくなるほどに彼の態度は弱々しい。
たった数分のうちにスーツさえ伸びきった麺のようにクタクタして見える。

「以前、どこかでお会いしました?」

「いや、一方的に見てただけ。ここで」

「・・・急に言われましても」

「急じゃないよ。半年以上待った」