「──……七瀬」


ひどく掠れた声が、たしかにそう言った。


本多くんが歩み寄る。

そして中島くんの前に屈み



「───、」


何かを、つぶやいた。


それはたぶん、中島くん以外の誰にも聞こえないほど小さな声だった。



本多くんが抱き起こそうとすると、中島くんはその手を振り払い。

ひざに手をついて自力で立ち上がり、ゆっくりと肩を上下させる。


白いシャツの左肩部分が、真っ赤に染まっていた。



「琉生、」


本多くんが名前を呼ぶ。


中島くんは、その声も聞こえないというように、ただひたすら、目の前の銃を持った男を睨んでいた。



すると次の瞬間。


本多くんが乱暴に中島くんの腕を掴み、自分の方を向かせたかと思えば

中島くんの腹部に、思い切り拳を打ち込んだ。



鈍い音を立てて、中島くんの体が、力なく地面に倒れ込む。


その背中に、ジャケットを──中島くんに直接返すと言っていたあのジャケットを、そっと被せた。



あたしはとっさに山下くんを見た。



「大丈夫。……気絶させただけだと思う」

「気絶……? どうして……」

「これ以上暴れられたら、……傷口が広がって死ぬから」



本多くんが男に歩み寄る。


「深川さん」


聞いたこともないような低い声だった。

そして静かだった。



「お前が殺したかった相手は目の前にいるよ。撃たないの?」