最初から分かっていた。彼に出会ったあの日から既に私の限りは短いということを。それでも終わりが近づくにつれて現れる体の違和感が止まってほしいだなんて、恐ろしいだなんて、思うとは思わなかった。


「冷たい……」


押しては引いて、引いては押してを繰り返す波間の傍で伸ばした手が濡れた。じわりと夜の海の冷たさが蝕む。けれど気にせず砂の上で人差し指に力を込めた。


「あ、な、た、の」


上手く手に力が入らないせいで弱々しく不細工な文字達。夕食を食べたあたりから手に違和感があったから驚きはなかった。終わりが近づいている。追いかけてくるそれに抗うように構わず書いた。


「こ、と、が、す、き」


なぞるように呟いた言葉はすぐに波に消された。元々綺麗だなんて到底思えないものだったけど、水に揉まれた文字はそれ以上に不格好だった。

それさえも波が攫って行く。それを黙って見ていた。暫くして、突然痛みが駆け抜けた。


「……うっ、……っつうぅ……」


手を胸に当て、痛みに耐える。心臓が痛くて苦しい。大きく脈打つ音を立てる度に軋むようで上手く息ができない。誰もいない海で助けてもらえるはずはない。