「じゃあ実里。あなたはお客様を部屋に案内しないさい。」
「えっ!?」
私は幸江さんの言葉に驚いてつい言葉を出してしまう。
「何か?」
「いや...その...実里さんは目が不自由なのに案内なんて出来るんですかね?」
普通に考えて無理だ。
私のような障害を持ってない人にとって暗闇の洞窟に明かり無しで探索しろと言ってるようなものだ。
「ええ。そこは大丈夫です。目が不自由になってから大体二十年くらい経ちましたが、娘は今まで住んでいたこの旅館の構造を把握しています。」
そう言って幸江さんは実里さんが出てきたドアのすぐ横にあるデコボコを指さす。
よく見ると壁のあちこちにデコボコがある。
「あれは場所の目印です。あれで自分が何処にいるか分かり、色々な場所にお客様をご案内することが出来ます。それに人手が足りないのでね。」
だとしても...目が見えない実里さんに案内任せなくても...
だけど当本人もその事が当たり前といった感じだし...本当に大丈夫なのか?
それに実里さんは生まれついて目が不自由で二十年間いるってことは...幸江さんはいったい何歳...明らかに三十代だけど...
「あの...ここの従業員は今何人いるんですか?それと幸江さんのご年齢は...?」
「私と娘とあと二人でやっています。こんなに大きい旅館...掃除するのも一苦労なのですが、元気にやらして貰っています。それとお恥ずかしいのですが私は今四十二歳です。」