あたしは家に戻るとストラップのついたスマホを机の上に置いた。


小さく切ったメモ帳に『ありがとう』と、自分の文字で書く。


夏斗になってみて、夏斗の気持ちに初めて気が付くことができた。


あたしは今まで自分の事で精いっぱいで、周囲の暖かさに気が付いてこられなかっただけなんだ。


奏も浩志も天真もユメノも、みんなそれぞれの事情を抱えていた。


あたしだけが苦しいんじゃない。


みんな苦しみながら一生懸命生きているんだ。


「本当にありがとう、夏斗。おかげでもう少し頑張れそうだよ」


あたしはそう呟くと、カッターナイフを手首に押し当てたのだった。