一月八日

* *

受験生になると精神的に追い詰められストレスがたまり発散したくなる。

ピリピリとした状態から逃げ出したい。

イライラから解放されたい。


だから、その発散の矛先をみんな加藤さんに向けた。

男子だけじゃなくて女子も参加していた。

疑われたくない気持ちとストレスの両方の意味を込めて発散。


天城さんは興味無いかのように難しい本を読んでいるし私は何もできず、ただ見ているだけ。


誰も加藤さんを庇わない。

傍観者である私も最低な人間だ。


加藤さんを存在しないかのように、わざと避けたり、ぶつかったり、嘲笑ったり、ノートや教科書を破きゴミ箱に捨てたり、体操服や上靴を隠したりして


みんな馬鹿じゃないかと思ったけどでも傍観者の私も馬鹿の一人。


みんなと変わらない。


放課後、偶然、加藤さんを下駄箱で見つけた時私は言葉を失った。


加藤さんの下駄箱には『死ね』『人殺し』と書かれた紙が沢山埋め尽くされていた。


「私じゃない」


加藤さんは目に涙を浮かべ呪文のように呟いていた。


天城さんも容疑者の候補のような存在にされているけれど天城さんは人と関わる事は普段からなくて、どんな時でも受験勉強に集中している人。


だからなのか標的にはされていない。


制裁なんて一人で十分とみんな思っているのからだ。

二人をいじめるのは面倒くさいって理由もあるかもしれないけれど、犯人の確立が高いのが加藤さんだから、みんな加藤さんに制裁を与えているのだ。


否定をしている加藤さんの訴えを無視して…。


「あの、加藤…さん」


私はそっと加藤さんに声をかけた。

すると肩をピクッと震わせた後、キッ!と細い目をして私を睨みつけた。


「あんたもそうなんでしょ!!」


「ちがっ…私は…」


「違うくない!!私じゃないのに!みんな…みんな…最低だよ!!」


そう言い捨てて加藤さんは走り去った。

私は何も出来ない。無力で卑怯な女。