目を開けると、あたしは堅いベンチの上に寝かされていた。
身体を動かすと、冷たいコンクリートの壁に腕がぶつかる。
手の平で額を押さえながら身体を起こす。
あたし、何してたんだっけ。
見覚えのない、かなりサイズの大きいダボダボのスウェットを着せられている自分が、今どこにいるのかよく分からない。
しばらく考えていると、ぼんやりとした頭にゆっくりと記憶が甦り始めた。
そうだ。あたし、クロールのテスト中に足を攣って……
突然身体がプールに沈んで苦しくなったことは覚えている。
だけどそのあとのことはよく分からなかった。
「おぉ、早瀬。気付いたか」
額を押さえていると、市川先生がドアを開けてコンクリートの建物の中に入ってきた。
「先生。ここ……」
「あぁ、プールの管理室だよ。普段あまり使ってないけどな」
市川先生はそう言うと、薄暗い建物の中に電気をつけた。