5月下旬。


一学期の期末テスト期間中の教室はどこかどんよりとしていた。


特に今日は昨日受けた数学のテストの返却があるから、もうすぐ帰れるというのにため息が多かった。


「テストなんて帰ってこなかったらいいのにねぇ」


あたしの親友である森西花梨(モシニリ カリン)がため息交じりにそう言った。


あたし、平中知世(ヒラナカ チヨ)はそんな花梨の肩を叩いた。


「今回の数学はわりと簡単だったし、きっと大丈夫だよ」


なぐさめのつもりでそう言ったのだけれど、花梨からすれば今回のテストはとても難易度が高かったらしく、拗ねたように頬を膨らませてしまった。


そんな子供じみた仕草も、花梨がやれば可愛らしくて少しだけ羨ましくなる。


可愛い系の花梨とは正反対のあたし。


どちらかと言えば1人なんでもできてしまうと思われるタイプなので、彼氏の浅尾明彦(アサオ アキヒコ)にもそんなに甘えられることがなかった。


「大丈夫大丈夫、まだ1年の一学期なんだから」


あたしはどうにか花梨を慰めた。


1年の一学期のテストで点数を取れないとなると、後後心配になるものなのだか、花梨はあたしの言葉を信じ込んで笑顔になった。


「そうだよねぇ、これから頑張ればいいんだもんね!」


その切り替えの早さには呆れてしまうが、こういう性格だから深く考えず悩みもないように見えた。