今朝の事を思い出すだけで指先にまで熱が回りそうになる。


「はぁ……。」


「しけた面(ツラ)してどうした?更年期か?」


声だけで誰だか分かる。


「さすがに更年期になるような年ではありませんっ!そっちこそ、近頃じゃ男の人もあるらしいわよ、更年期。」


売り言葉に買い言葉。


昼時の社員食堂にて私に遠慮無い言葉を投げかけてくるヤツなんて一人しかいない。


「えっ、マジで?男もあんの?」


と、私の真向かいの席に付いたのは同期の志賀一歩、いっぽと書いてかずほ。 


営業の志賀は大抵、外で食べる事が多いけどこうして社食で食べる時はよく私の席にくる事が多い。


「そうよ、あんたも不摂生な生活してるとなっちゃうわよ。ほら、また煮物の小鉢取ってないでしょ?」


日替わり定食に付いている小鉢をいつだって取らない志賀。


特に煮物のニンジンが苦手らしい。


ほんっと、お子ちゃまだわ。


「っで、更年期じゃねぇんなら何なんだよ?もしかしてーーー藤枝さ」「変な事言わないで!」


思わず声が大きくなるものの、昼時で賑わっている広い社食の隅で食べる私達の事を誰も気に留めない。


「そういうのじゃないから……。」


否定するもその言葉に説得力はない。


志賀は唯一、私と藤枝さんとの関係を知っている存在だ。


たまたま二人でいる所を見られてしまったのだ。


「お前がそう言うんだったら良いけど。気不味い事があるなら異動願いを出したっていいんだぞ?営業事務とかさ、うち丁度一人辞めるから。何なら上にそれとなく話通そうか?」


志賀が私を心配して言ってくれるのはよく分かるし有り難い。


だけどこの年で異動願いなんか出そうものなら、それこそ退職を勧められそうだ。


「ありがとう。本当に大丈夫だから。もう完全に終わった事だし。」 


「そっか。まぁ、事実上、総務のボスだからなお前は。」


「ちょっと、ボスってなによっ!」


と、毎度の事ながら賑やかにやっているとーーー


「ここいいですか?」


暫定彼氏がやって来た。