パン屋の朝は早い。

これは、もはや業界の常識と言っても過言じゃない。


それは我が家も例外ではなく、毎朝3時過ぎには厨房に灯りが灯る。



「はぁ~、眠ぃ」


俺は作業用白衣を纏い、帽子を被る。

そして、慣れた手つきで肘から指先を念入りに洗っていると。


「周、今日はバゲットから頼むな~?」

「………うぃ~」


既に厨房で仕込みをしている父親。

その後ろを通り過ぎ、バゲット(フランスパン)用の生地を準備する。


俺は中学に上がると同時に、こうして毎日仕込みを手伝うようになった。

小学校低学年の頃は、店番と称してお客さんに笑顔を振り撒いていたが、4つ下の弟・翔が店番デビューすると同時に少しずつ製造を手伝うようになっていた。


我が家の家訓『働かざる者、食うべからず』

まぁ、どこの家庭も同じだと思うが、自分の小遣いは自分の身体で稼げって事。


だから、俺も翔もパン屋の仕事を手伝っている。