これは、私(クミ)が数年前に体験したあまり思い出したくない出来事です。

高校三年の夏やすみ。
みんなが図書館に通い詰めで受験勉強するシーズンです。私もそうでした。
夏やすみも終盤に差し掛かったあたり、幼馴染のリサからメールがきました。
『今週末、肝試ししない?』
私はもちろん、それに賛成しました。
いい気分転換になると思ったのです。

週末夜8時。雨。
集合場所のファミレスには、リサとリサのお兄さんとその友達がいました。
「あっ、クミ!こっちこっち〜!」
「ゴメンね遅れて〜!ソウタさんユウさんこんばんは。」
私は二人共顔見知りだったので、挨拶してから席につきました。
メニューを見ましたが、あまり食べたいものはありませんでした。
「で?その有名な心霊スポットってどこなの?」
クミに尋ねると、代わりにお兄さんのソウタさんが答えてくれました。
「T市のSトンネルだよ。知らない?」
「あ、それ知ってます!そこに行くんですか?」
「そ!あそこ結構雰囲気あるだろ?」
Sトンネルは昔なんらかの事故があったらしく、白いワンピースの女に追いかけられただの、ランドセルを背負った血まみれの男の子を見ただのそういう噂が絶えない場所です。
「クミちゃん、怖くて漏らしちゃうんじゃないの〜?」
「ユウさんこそ。昔ゴキブリにビビってたじゃないですか。大丈夫ですか?」
「…昔のこと蒸し返しやがってぇっ!おりゃ!」
デコピンされました。

そうこうしているうちに11時になりました。真夏でもさすがに真っ暗です。
ファミレスからSトンネルまでは1時間半かかります。山道が続くのでソウタさんとユウさんは交代しながら運転していました。
雨はだんだん強くなってきました。
車の心地良い揺れで、私は途中で寝てしまいました。
「クミ、クミ!ついたよ!」
「ん、あぁ…、寝てた…。わあ、夜みるとやっぱり雰囲気あるね。」
車はトンネル入口から10メートルほど離れたところで停車していました。運転手はソウタさんです。
「じゃ、行くぞ…」
Sトンネルは約800メートルです。途中で左へカーブしているので向こう側の光は見えません。
4人の間には会話がありませんでした。ただ雨が車の屋根にあたる音しか聞こえませんでした。
「なーんだ、なんもなかったじゃんか。もう帰ろーぜー」
「そうだな。じゃあUターンするか。」
「えっ、もう一回トンネル通るの!?怖いよ〜」
「こーゆーのって帰りのほうが『出る』ってゆーじゃん。」
私とリサとで粘りましたが、聞き入れられず、Uターンすることになりました。
「うお〜!なんか来るときよりもコエー!」
「ユウさん…絶対きのせいですよ、それ。」
「てか雨つよくね?こんなに降るって言ってたっけ?」
私はそこで、隣に座っているリサが震えていることに気が付きました。歯の根が合わないようでカチカチ鳴っています。
「リサ?どうしたの?大丈夫??」
「……て、」
「え?」
「はやくでて!!!!!」
「え、なんだよいきなり。どーしたんだ?」
「いいから!!はやく!!!!」
私達はワケがわかりませんでしたが、リサの必死さに気圧されて制限速度を超えるスピードで走り、トンネルを出ました。
そのころにはリサは少し落ち着いていました。
「なぁ、どうしたんだ?いきなり。なにか見えたのか?」
「お兄ちゃんには聞こえてなかったの?」
「んー、なにも声とかは聞こえてなかったよ?」
「うん。そうだなー。」
「ちがう!そうじゃなくて!


なんでトンネルの中なのに雨の音が聞こえるの!?」


雨はいつの間にかやんでいました。
私達はそのまま一応お祓いに行きました。
文字に書き起こすとあまり怖くありませんが、リサが雨の事を指摘したときの恐怖感はいまでもきえません。
今も相変わらずSトンネルの霊の目撃情報が絶えず耳に入ってきます。