真っ暗な世界で、誰かが泣いている。
子供だ。
まだ小さな少女。

私はその少女を空から見下ろしていた。
光の無い真っ暗な世界だ。それなのに、私にはその子が小さな少女だと分かる。

私は泣いている少女に手を伸ばそうとするけれど、遠くから見つめる私の手は空を切る。
いや。手が、見えない。

少女は顔を覆っているから、私には気が付かない。

一人ではないと、教えてあげたいのに、声が出ない。


(泣かないでよ……)


もがいても一向にその距離は埋まらなくて、それどころか、もがけているのかも分からない。

苦しくて、心細くて、不安で胸が張り裂けてしまいそうだ。

これは、あの子の感情だと気が付いた。
泣いている少女の想いだ。

それが、私にはわかる。


あの子は、私だ……


そう。これは、夢だ。
悪い夢だ。

あの子は、私だけど私じゃない。

だって私があの子の年の頃に、こんな風に泣きじゃくったりしなかった。

どうして泣いているの?


『あず……』


突然、空から声が聴こえた。

私も少女も上を見上げる。


『あず』


優しい天上の音楽の様に降り注ぐ声。
少女が笑顔になるのが見えた。


突然に光が刺す。

少女は、空に手を伸ばした……