京夜様のマンションを出て、会社へと向かう。
その足取りは恐らく入社してから、一番軽やかだと思う。
大通りまで歩いて、そしてタクシーを拾った。
いつもは実家からバスで通ってたけど、
マンション付近にはバスが走っていない。
しかも、京夜様から命を受けている。
『電車とバスは使うな』
何故かと聞き返したら、
顔を真っ赤にしながら彼はこう言った。
『幾ら武術が出来ると言っても、満員車両の中では出来る事に限りがある』
恐らく、痴漢に遭うと心配してくれたみたい。
私みたいな女なんて、誰も気に留めたりしないのにね。
でも、彼の気持ちが嬉しくて、約束をしっかり守ろうと思うの。
世の男性が私を『女性』として見てくれなくても構わない。
彼さえ『女性』として見てくれたら、それで充分。
私はタクシーに乗り込んで会社を目指した。
会社に到着した私は一目散に自分の配属部署へと向かう。