うわさと言うものは常に人の間を動いている。


 人から人へうつるほど、真実からは遠ざかり、各々の聞きたい言葉へ変わっていく。


 私が受け取った幾つかのラベンダー荘のうわさもきっと、そんなものの一つだろう。


 特に眉唾物に感じるのが『失くしたものが見つかる』といううわさだが、これがおもしろいことに、俗物的な噂の水面下で密かに囁かれ続け、ラベンダー荘が建ってから今までずっと変わることなく語られている。


 ラベンダー荘の管理人から手紙を受け取った日から一ヵ月後の今日。

 
 私はアイアンのフェンスで囲まれたラベンダー荘の前に立った。


 朝食をすませてすぐ家を出たのに、太陽はもうほぼ真上に来ている。


 噂どおり、ラベンダー荘の概観は美しい緑で覆われていた。

 
 さまざまな植物が自然に生えたようにも見えるが、フェンスに絡まるバラの蕾や、微かに見える前庭から伝わってくる雰囲気は、人の愛情が大切に加えられているように感じる。


 よく晴れた空色が緑の向こう、ラベンダー荘の二階のピカピカの窓にうつり、真っ白い壁をさらにまぶしく見せていた。


 おそるおそる門に近づき手を伸ばし、一気に取っ手を押しながら開くと、体は勢いよく門の内側に引き入れられた。


 その瞬間、スニーカーごしに、柔らかくて厚みのある草の感触が伝わってきた。


 甘い花の香りを乗せた風がときおり、体を包み込む。


 私はぼうとしながら、よく見もせずに背後の門を閉めた。