エリンが目覚めたとき、明らかに空気が違うと思えた。


「潮の香り・・・海が近いの?」


「やっと目覚めてくれたね。大丈夫かい?」


「あなたは誰?
あっ、私は・・・エリン・・・あれ?エリンなんだっけ・・・あれ・・・私は何者なの?」



「そういうことか・・・。
エリンがわかっていれば呼び名には困らないね。

君はここにある人物から荷物として送られてきたんだ。
それが2日前。
だから、これからまず食事だな。」


「わからない!自分が何者かわからないわ。
どうして・・・?

あなたは何者なの?」


「一時的に記憶を失っているんだ。
たぶん、そういう薬を使われたんだと思う。

心配するな・・・僕はクリーブ・ラミ・カロンド。
クリーブって呼んでくれ。
あとはこれから君が知っていけばいい。」


裏が海岸のすぐそばにある景色豊かな豪邸。
この豪邸と海だけで絵になりそうな・・・豪邸というよりも城といってもいいほどの一見古そうに見える邸に自分はいるのだとエリンは認識した。


それでも頭がときどきズキズキ痛んで、めまいもおこす。

クリーブは使用人の手はほとんど借りずにエリンの世話をしてくれる。


「さすがにここは・・・まずいからね。
メイド2人に任せるよ。

出てきたら軽いワインでも楽しもう。」


エリンはメイド2人の世話で入浴をすませて夜着の身支度までしてもらった。



「私とクリーブはどういう関係でここに住んでいるの?
それだけでも本当のことを教えて!」


「僕も知らないんだ。」


「えっ??」


「君は2日前の夜に見知らぬ男に大きな荷物としてトラックで運び込まれた。
運び込んだ男と話そうとしたらもういなかった。

だけど、君には送り状と簡素な手紙がついていてね、送り主は僕の妹からだった。」


「妹さんが・・・私を?」


「妹といっても母は違うんだけどね。
僕は私生児だから、嫌われている。ずっとね。

きっと妹にとって君も嫌いな人間だったんだろうな・・・としか今のところわからない。
だが・・・君の身元は薬の効果がきれたらわかるはずだ。

だから今はあせらないこと。
僕が信用ならないかな?」


エリンはじっとクリーブの顔を見つめた。


(深くて濃いブルーの瞳・・・。こんな目をした人を知っているような気がするけど。
きれいな顔立ち。物静かないでたち。
私のような自分がわからない女のために、大切な時間をわずらわせてしまっている。
そんな気がする。)


「信用できないって出ていくこともできません。」


「そうだね。君は賢い人だ。
君の身元も僕のスタッフが調べている。

でもなぜかな・・・僕は君の背景を知りたいと思わない。
ただのエリンのことが知りたいと思ってしまうな。」



「クリーブ・・・。」