「……美月、こっちに来てよ」


 ドアの近くで突っ立っていたままだったわたしの耳に飛び込んできた最初の言葉は、カナの発した一言だった。


 それは、ゆっくりと囁くような声だったけど、静かな病室内ではそんな小さな声すらも響いて聞こえた。


「……え?」


 一拍遅れてやっと出たわたしの声は、ひどくかさついていた。


 カナがなにを言ったのか、わからなかった。


 理解したくなかった。


 というか、本当に意味がわからない。


 カナは今、なんて言ったの……?


 身体が急激に冷えていくのがわかって、指先が震えた。


 心臓が尋常じゃないくらいに、早鐘を打つ。


 カナのお母さんが俯いて震えているのが目に入った。


 きっと、わたしの後ろに立つイチも狼狽えていると思う。 


 この瞬間、気付いてしまった。


 ……カナが、以前までのカナじゃないことに。