「手、繋ぎたかったんでしょ?」

 その発言にびっくりした彼女は勢い良く彼の方を振り向くと、今まで見たことの無い距離で彼を感じた。
 恋人達を目で追っていたのがばれていた事の恥ずかしさと、つい先程まではビジネスとして接していたのが今では恋人の距離になっている事に、戸惑いを隠せない。

「焦る事は無いよ、ゆっくり進んでいこう。……そうだ、服を買ったら待ち合わせからやり直そうよ。そしたら、飲めないコーヒーをわざわざ注文する事もきっと無くなるよ」

 溢れんばかりの笑顔で微笑むと、ヒールを履いている彼女と歩く速度を合わせる様に、肩を並べてゆっくりと歩き出した。