私が持ち場に戻ると悠里に私を呼ぶよう言った山元さんがいた。
「ありがとう、本田さん」
山元さんは、悠里に礼を言うと、私の顔を見た。
『山元さん、話とは何ですか?』
私は、その目に全てを見透かされているような感じがした為、早く此処から立ち去りたく話を促した。
「いやね、鬼崎さん。貴女に言っておきたい事があって呼んだのよ」
山元さんは、一旦言葉を止めると鋭い目付きで私を睨んできた。
「貴女…男を惑わしていいご身分ね」
私は、分からなかった。
山元さんが言っている意味が分からなかった。
『どういう事ですか?』
「分からない?貴女は、男を惑わせる女だって言ったのよ。工藤くんも、よく貴女と付き合えるわよね…」
その言葉で合点がいった。
山元さんは、私が拓也と仲良くしてるのが嫌なのだ。
いや、私が男と話しているのが嫌なんだ。
だから、貴女も私が男を惑わせる…女として見てるって事なのね。
そう言われるのが嫌で、この会社では男とあまり接してなかったのに…この会社でも同じだったか。
私から拓也を取るのか。
私から悠里を取るのか。
許さない、絶対に
「冬、弥?」
私を呼んだ悠里の声が聞こえない程にきつく睨み付けていた。
「何よ、その目はッ!」
パァーンッ!
冬弥は、頬に手を当てていた。
そう山元が冬弥の頬を叩いたのだ。
冬弥は、山元を睨み付け静かにその場を離れていった。
「ちょ、冬弥!」
「待ちなさい」
冬弥を追いかけようとした悠里は、山元の声に「まだ何かあるのか?」と鋭い目付きで見つめた。
「貴女は、持ち場に戻りない。それと、付き合う相手は考えた方が良いわよ」
「貴女には、関係ないですよね。なら、話しかけないでください」
悠里は、それだけを言うと後ろを振り返る事なく冬弥を追いかけるのだった。