私は、現在警備の仕事をしている。
もう二度と恋をしない為だ。
父さんの言葉に惑わされたくない為の小さな抵抗だった。
「冬弥~」
私を呼んだのは、私と同じ会社で働いている高校からの友人・本田悠里だ。
『悠里?』
彼女は、何でも知ってる。
私が彼氏を持たない理由も全て知っていた。
だから、私は唯一彼女だけは信じられたんだ。
「はぁはぁ…ちょ、待って…」
『どうしたの?』
悠里は、どうやら走って来たようで息がきれぎれだった。
悠里が落ち着くまで待っていたら、悠里の後ろからゆっくりと歩いてくる男がいた。
彼の名前は、工藤拓也
彼は、この会社に入った時に知り合った同期だった。
彼もまた、私が落ち着く相手の一人だ。
事情も知らないのに、何も言ってこないから安心出来た。
「本田が走って行くからさ…。着いてきた」
『そっか』
「よし!」
「お、復活したなww」
拓也や悠里とは、安心して側にいられる。
だから、いつも三人一緒にいられる。
『で、何か話があったんでしょ?』
「うん。山元さんが呼んでるから呼びに来た!」
『それだけ?』
「え、うん」
真顔で頷かれたら、何も言えない。
もう少しで出かかった『別に走って来なくても良いじゃん』は寸前のところで飲み込んだ。
必死に言いに来てくれたのだから、何も言わなくても言いかと思ったからだ。
「お、じゃあ早く行かないとな」
先ほど出てきた山元さんは、私と悠里の部署の先輩だ。
私と悠里は、私物という部署に所属し、拓也は巡回の部署に所属している。
何故違う部署なのに、こんなに仲が良いのか…それは、主にビル管理を任されているという事で同じ所にいる事が多いので遭遇しやすいからだった。
『うん』
その私物の山元さんは、私たちの先輩である為に勤怠表や出勤簿を管理している人だ。
山元さんは、怒ると怖い為、怒られないように私たちは持ち場へと帰る事にした。