「ちびちびちゃん。ちびちびちゃん」
その日の夜。
うつらうつら水の中、『鼻提灯ぷぅ』で眠っていた私は、隣の丘ヤドカリ水槽の方から名前を呼ばれて『はっ』と目を覚ました。
隣では、でかでかちゃんが特大の鼻提灯をこさえて寝入っている。
ピチャン。
私は水中から顔を出して、薄暗い中、目を凝らした。
「だれ? 一郎君なの?」
聞こえたのは確かに一郎君の声のような気がしたんだけど……。
一郎君は私を名前で呼んだことはないし、他の丘ヤドカリさんとは、ほとんど話しをしないから、誰が誰だかイマイチ良く分からない。
「一郎君?」
「そう、僕だよ、一郎」
答えが返ってきて、私はほっとっした。
「どうしたの? こんな真夜中に?」
「うん、あのね、お別れを言いたくて起こしたんだ。ごめんね」
え?
淡々とした言葉の重さに、一瞬脳細胞が活動を停止した。
「ちょっ、ちょっと、どういう事、お別れって!?」