「あれぇ? お母さん、一郎君が何だか元気がないよ?」

次の日、学校から帰ってきて私達の様子を見に来た里美お姉ちゃんが、不安そうな声を上げた。

「え? 一郎君が? どれどれ」

対面式のキッチンで、夕飯の下ごしらえをしていたお母さんが、エプロンで濡れた手をフキフキしながら、私達の居るパイプラックの方に歩いてくる。

しばらくじっと観察していたお母さんは、丘ヤドカリ水槽に手を入れて、自分の手のひらに一郎君を乗せた。

「一郎君、病気なの?」

みーちゃんが心配そうに傍らで、お母さんの手の中でじっとうずくまっている一郎君を見詰めた。

お母さんは、そっと一郎君を水槽に戻して、ふぅっと一つ大きな溜息を付いた。

「里美、美菜、ちょっとここに座って」

ダイニング・テーブルに二人を呼ぶお母さんの表情はいつになく真剣で、私は意味もなく『ドキン』と鼓動が跳ね上がった。