十年前について聞かれた時、最初に思い出すのは、空から墜ちてくる白い飛行機。

機体は火の衣に覆われ、人里離れた山の中に吸い込まれるように消えた。


耳を突く程の轟音が周囲に響き渡り、黒煙が視界に拡がる。

赤と黒の悪魔が、一瞬の間に緑の森を包んだ。


自身の喉から発せられる絶望による絶叫。

近くにいたせいで墜落で生じた衝撃波に煽られ、体が宙に舞い上がり落ちる。


骨の折れる音が体内に響いた。

皮膚が裂け、血が滲み、頭が痛む。

着ていたジャンパースカートは破れ、痛みで涙が止まらない。
それでも立ち上がった。

額に流れる血に気づいても、左腕が動かなくても、わたしは行かなければいけない。


あの飛行機のもとへ。


意識は朦朧としていたが、何度も転び、最後は這うようにして近づいた。


木の焼ける音。

砕け散った機体。

炎に抱かれ眠る人。

黒く身を染める人。

血にまみれ散らばる手足。

そして、それを喰らう少年。


次々と視界に飛び込んでくる凄惨な光景に耐えきれず、その場に崩れ落ちたわたしは、炎に身を蝕まれた。

体を起こそうとしたが、指先すら動かせない。

痛みはもう過ぎた。


姉さん。


姉さんはどこ?



涙が流れ、雫が地におちる。

その僅かな音に悪鬼が振り向いた。

闇夜と黒煙のせいで、その表情はわからない。

お願い。

姉さんを食べないで。


お願……




少年の口元が横に歪んだのが、見えた。


笑ったのだと理解したと同時に、彼が手にしているものに気づく。


青白く痩けた頬。

大きく見開いた瞳。

髪が乱れ、面影は見るよしもないが、あれは……


「柚子姉さ……」


そこから先の記憶は、ない。