朝早くに目が覚めた
ルナは、机の上で
寒そうに体を震えながら
寝ているフィオラに



自分の部屋から持って来た
毛布をかける。





海岸へ行くことを
昨日伝えていたので、
ルナは何も言わずに家を出た。








朝だというのに
ラグーン王国は相変わらずの
賑わいである。


ルナはその賑わいを
避けるように王国のはずれの
関所へ向かった。




桟橋の鯉が口をパクパクとさせて
こちらを覗き見る。


ルナは「ごめんね。今日は
何にも持ってないの」

と鯉に言うと、鯉は
口を閉じ遠くに行ってしまった。



「へー。魚と喋れんのか。
お前すげーな」

桟橋の向こう岸の方から
聞いたことのある
声がした。



にひっと笑ったその顔は
昨日のあの少年だった。



ルナはびっくりして
急いで逃げようとするが

少年の手に白いタオルが
あるのを見つけて、逃げる足を
止めた。



深呼吸して
「タオル!」と叫ぶと



少年は「ああ、これ?」

とタオルを持っている手を
持ち上げる。



「こっちに来たら返してやる!」



と少年は言った。




慌てふためくルナを見て
少年がクスクスと笑うと



ルナはちょっとむすっとして
「じゃあ、いいです!」
と顔を赤くして言った。



少年はまたクスクスと
笑いながらこっちに歩いてきて
逃げようとするルナの腕を
またがっちりと掴み


はいっと言ってタオルを渡す。


「お礼が言いたかっただけなんだ。
おこんなよ〜。」

「あと!逃げんな!
俺はあんたに聞きたいことがあるんだ」


少年がそう言うが
ルナは少年の腕を振りほどこうと
自分の腕をぶんぶんと
振り回す。



「おいー!きーてんのか!!」



少年はたまらずもう片方の
腕もぐっと掴んだ。


ルナは「いやっ!」
と叫ぶ。



「…もしかして男嫌い?」



少年が掴んでいた腕をはなすと
ルナはちょっと後ずさりして
こくりとうなずいた。




「ごめん!知らなかったんだ!
本当にごめん!」


「でも、本当に聞きたいことが
あるだけなんだ。」



頭を深くさげる
少年にルナは



「…何が聞きたいの?」



と小さく言った。



少年はふう、と息を整えて




語り出す。


「俺は、魔法使いなんだ。」



「名前はスタージ。
フリージア王国って言う国の
南東の都市パルナの出身」




「だけど、そのフリージア王国も
パルナも
一週間前俺の目の前で消え去った。」





「次に消えるのは多分この国だ。」







少年の目は少しくすんでいた。