わたしの名前はーーだったんだ。


葵はわたしの侍女兼側近で位も高い。何かの遣いに出されていると思われている可能性がある。指示を仰ぐのは今、葵の立場なのだろう。

それよりお父上は…?

あまり会うことも話すこともなかった父だか、安否は気になる。

無事逃げ出せただろうか…。いや、家臣たちがいるのだ。ただの火付けぐらいで逃げ出せないわけがない。


「主人もお嬢様も、あの様子ではもう…」

「どういうこと!?ただの火付けではないのですか!」

「はい…。何者かの巧妙な罠にかかり逃げられなかったのだと思われます…」


家臣たちがいながらその場を離れられなかったとは、かなりの権力を持つ者が実行できることだ。もしかしたら家臣の中にも裏切った者がいたのかもしれない。

それならば……本当に……。わからない。
お父上が死んでしまったっていうの…!?


葵は無意識に震えていたわたしの手を強く握ってくれた。


「わかりました。私もすぐに屋敷へ戻ります。あなたも屋敷へ戻りすることがあるでしょう、先に戻っていなさい」


さすがの葵も動揺を隠しきれずに少し震えた声音で簡潔に告げると、彼はすぐに頷きもときた道を走っていった。

そしてすぐに葵に引っ張られて人通りの少ない道へ移動した。

「お嬢様、よくお聞きください。主人が亡くなってしまった以上、今家を仕切っているのは弟君でしょう。公家に執着していた弟君はお嬢様の存在を否定する可能性がございます」

「………」

「いくら私や他の侍女達が証言したとしても権力でもみ消せます。それに、亡くなってしまったと公式に発表されてしまっては打つ手はありません。お嬢様の命すら狙われるでしょう」

「それで……わたしに逃げろと…」

「……はい」