わたしの名前はーーだったんだ。



「お嬢様、周りの者に好奇の目で見られております。やはりここは立ち去るべきかと…!」

「いいのよ。気にし過ぎ」

ソワソワする葵に対して落ち着いた態度でメニューを見る。

本来公家の娘が下町に出ることなどありえない。いくら上等の着物を身につけていても、わたしがそうだとは思われないだろう。

いつもは屋敷の奥で生活しており、家族以外の者に顔を見せるなどありえないのだ。


……何がなんだか全然わからないわ。


アイスクリンとかないのかしら…?


「こんにちは」


カタカナを見つめ唸っていると、上から声が聞こえる。顔を上げると異人の男が立っていた。

年は20後半だろうか。鮮やかな金髪に目が奪われる。青の瞳も彼が日本人ではないことを示していた。


「あなた、日本語話せるのね」


「完璧とまではいかないですが、勉強家なのでだいたいわかるようになりました」


「異国でお店なんて凄い。それほど美味しいのよね?おすすめを持ってきてくれない?」


「ありがとうございます。おすすめですね。かしこまりました」


笑顔で去って行く男に向かいの女子達がきゃっきゃと騒ぎ立てている。


「顔立ちだけは整っているようですね」


「そう?わたしは日本人のような顔立ちが好みだけど」