「………遅い」
客人を待っているのだから、暇つぶしに外へ出かけることができない。それに葵なしで外出したらお父上になんと言われるか…。
ーーコンコンッ
「失礼します。葵でございます」
「入って」
やっときたようだ。だが、中に入ってきたのは葵だけ。
「どうしたの?」
「失礼ながら、今日のところは中止になりました。また日時を改めて伺いにくるそうです」
蒸し暑い部屋に長時間放置したあげく、いまさら中止……。
「…もう、いい。葵、久しぶりに商店街をあるきましょう?」
「でも…」
「いいのよ。中止になったんだもん。お父上も何も言わないはずよ」
まったく。異人は礼儀がなっていない。お父上に外はあまり歩いてはいけないと言われたが、こればかりは仕方が無いだろう。
葵も渋ってはいるものの、いつもいけない分行ってみたいという気持ちがある。
暗くなる前に帰るという約束し、出かけることを了承した。
商店街を葵と並んで歩くと、やけに人目を感じる。
異国の方が多いのか、着物を珍しがっているのだろう。
上等の着物も目立つ要因だ。平民のような薄汚れた布と同じだとは思われないのだろう。