わたしの名前はーーだったんだ。



「わたし、ここで寝るから。家がないのは本当。今日なくなったの、帰れなくなったの。君にこんな話しちゃってごめん。でも大丈夫、なんとかなるよ……多分」


それから少年は黙って立ち尽くすだけ。
いたたまれなくなり扇の金細工を眺めていると、


「…!?」


ふいに腕を掴まれて立ち上がらせれた。あまりに自然な動きで、気づかない静寂の中でも気づかないほど。


……なんか前にもあったような…


なんとなく予想してた通りになるのかと腕を引っ張られたまま考えていると、公園の外へ歩き始めた。


「え…ちょっ、ちょっと待ってよ!」


「なぁに」


「えっ…と、その、どこ…行くの」


「どこって、それりゃ…俺んち?」


なぜ疑問系!?
というか

「なんで君の家!?」


少年は腕に加えられた力を弱め、目を見開いてさも当たり前のように言う。


「家、ないんだろ?」


「ない…けど」


「ならいいよな」


それからまた前を向いて歩き始めた。


理解できないのですが!?


暗闇の中、大通りを突き抜けてさらに歩く。どこまで行くのかわからないが、当てがないのだ。そのまま流れに身を任せた。