わたしの名前はーーだったんだ。



「…?」

よく見ると少年の服装には見覚えがある。あれは確か、屋敷に招待されてお父上たちと話し合いをしていた人達が着ていた。
白と青の色合いが綺麗で印象に残っていたのを覚えている。

暗闇でもその布地が上等なものとわかるのだ。やはりこの少年は武家の者…?
と、じっと見つめる。

「…ん?あんた……公家の者か」

視線に気づいた少年が子犬から目を外しこちらの着物を伺ってきた。
朱に金の細工をほどかした着物はわたしのお気に入り。今日は出かけるからとこの着物を着てきたのだ。

でも、ここで頷くわけにはいかない。
葵からキツく言われているのだ。武家の者ならなおさらダメで。


「あ〜違うよ。この着物は借りただけだから」


「…そっか。庶民で着物を借りるなんて、婚約でもあるのか?」


「いや…そういうわけじゃ…」


婚約の話まで問われるとは、やはり着物というのは目立つものだ。わたしくらいの歳のさらに公家の娘となると、婚約していないほうがおかしいというものか。


「でもま、そんな上等な着物借りれるなんて、あんたやっぱり良いとこのお姫さんだろ?帰らないと心配されるぞ?」


「あ…うん。もうちょっとだけ…」