「あ……」
帰ろうとして気がついた。今は葵もいないのだ。家にも戻れないうえに泊まる場所も決めていない。
屋敷から出ることも許されていなかったために知り合いという知り合いがいない。
どう…しよ
とりあせず暗闇は危険だ。大通りに出たほうがいいか……。今は異人の家からは電気がある。危険がなくなるわけではないが、人がいても気づかないほどの暗闇が広がる路地裏にいるよりはマシだろう。
足元に気をつけながら家々の隙間を縫うように歩いて行く。
ーーワンッ
前方から犬の鳴き声が聞こえて体が揺れた。しかもどうやらこちらに向かってきているようだ。
「………」
逃げたほうが……いや、動かないほうがいいだろう。下手に動くと音でばれてしまう。
息を潜ませて気がついた。ザクザクと人の足音も聞こえる。まずい…かも。
夜に出歩く人は浪人や間者がほとんど。そう侍女たちから聞いていたから、不安がすごい。
暗闇をじっと見つめていると、汗がじんわりと流れる。
「ちょっ、ポチ!待てっていってるだろ!」
瞬間、聞こえてきた少年の声に緊張がほぐれた。
「なんだ……よかった」
浪人などではないようだ。

