わたしの名前はーーだったんだ。



「ーーーーーー………
ーーーーーー………」


昔、かあ様がまだ病気ではない時によく歌ってくださった曲を思い出した。
いかせん幼子の頃だったため、このフレーズしか覚えておらずここを繰り返して歌うのだ。

静かで落ち着く曲想は、楽しい時に歌うと楽しい歌に。悲しい時に歌うと悲しい歌に聞こえる。


「かあ様、わたしは大丈夫です。安心してください。わたしには葵もいます。家に戻れなくなるとしても、かあ様はお父上と見守っていてください。わたしは自分にできることを精一杯やっていきます。…それが、約束ですからね」



心残りなのは……そうですね、今週でわたしの16回目の生まれた日になります。

お祝いして欲しかったです。

毎年のように大人数で宴会のようなものを開くより、かあ様とお父上とわたしの三人で。小さくても構わない。

お父上とお酒も飲みたかったです。

甘酒なら…いいですよね?



想いを巡らせていると、視界に蛍の淡い光が飛び込んできた。そこで初めて周りが暗くなっていることに気がついた。
思ったより時間がたっていたようで慌てて固まった足を立たせる。

茅葺屋根の小屋から微かに光が見えるだけ。火は長くは受けられないから、暗くなったら寝るというのは当たり前だ。