無論、成美からの答えは毎回同じだった。

 ――食事は、している。

 しかし俺は、成美の言葉を信じなかった。本当に食事をしているというのなら、このようにやつれ方はしない。

 明らかに身体が弱り、もう時間はない。治療方法がない今、やはり〈月光花〉に縋るしかない。

「康之?」

「何?」

「どうしたの?」

「何でもないよ」

「嘘。康之がその表情をする時――」

 成美の言葉に、俺は苦笑いを浮かべていた。彼女に隠し事はできがいが、自分が計画していることを話すわけにはいかない。

 これは都市伝説で、本当か嘘か不明な点が多い。

 そのような物を求めていると知ったら彼女は絶対に反対をし、そして泣き出してしまうだろう。

 それに話したことよって病気の進行が早まったら、一生罪悪感に苛まれてしまう。

 成美に気付かれないように適当なことを言い話題を横に逸らすが、正直に言って胸が痛む。

 それは時間の経過と共に強くなっていき、今では全身を鋭い切っ先を持つ針で刺されているかのようだ。

「……御免」

「どうして、謝るの?」

「少しの間、見舞いに来ることができない。別に深い理由があって、来れないわけじゃないんだ」

「大学のこと?」

「友人と集まって、一緒に勉強をしようと思っているんだ。テストも近いし……悪い点数は取れない」

「頑張って」

 どうやら成美は、嘘とは気付いていない。その証拠に「単位は大丈夫」と、俺の学力について心配をしてきた。

 その優しさに、俺は成美の顔から反射的に視線を逸らしてしまっていた。

 ふと、病室の扉が叩かれた。

 その音に導かれる形で俺は視線を扉がある方向に向けると、白衣を纏った医者と看護士が視界の中に入る。確かこの医者は成美の担当医で、診察に来たらしい。

 俺は診察の邪魔になってはいけないと、病室の隅へ移動する。すると医者は俺の姿に気付いたのか、軽く頭を垂れた。

 それに続き、看護士も頭を垂れる。

 顔見知りというのはおかしいが、この医者とは何度も顔を合わせている。それが関係してか、それ以上の反応を取らず診察を開始していた。