成美は昨年まで、同じ大学に通い一緒に講義を受けていた。そして様々なイベントを共に過ごし、素晴らしいキャンパスライフを満喫していた。
今思えば懐かしいものだが、過去に浸っている暇はない。確実に、病は成美の身体を蝕んでいる。
だから、俺は前に進むしかない。
全ては、彼女の為に――
◇◆◇◆◇◆
友人達の好意に甘え、俺は成美が入院している病院へ向かった。
此処は有名な大学病院でこの国で五本の指に入ると言われているが、全ての患者が助かっているわけではない。
現に成美は、今の状況では助からない。優秀な教授や助教授が集まっているというのなら助けてほしいが、彼等に期待はできない。
非現実的な「奇跡」という言葉を用いるのなら、現代医学の発展を願う。この部分が発展しなければ、成美を助けることができない。
しかし、現実は予想以上に厳しいと教授から聞かされている。
病名は成美に伝えられていないが、彼女は勘がいいので薄々は気付いているかもしれない。
気丈に振舞う雰囲気がそれを物語っており、このように今日も無理して笑っている。その笑顔が、胸を疼かせた。
「気分は?」
「大丈夫。最近、発作は起こっていないから」
「それならいい」
「大学は?」
「来週には、夏休みだ」
「そう……ね」
元気だった頃の自分を思い出したのか、急に暗い表情に変わってしまう。俺は慌てて口を塞ぐが、それは遅かった。
しかし俺の考えを察したのだろう、成美は口許を緩めつつ頭を振った。
「元気になったら、何処か行きたいわ」
「勿論!」
「海に行きたい」
「ああ、行こう」
「約束ね」
その言葉に続き、成美は俺の手を取る。刹那、信じがたい事実に気付く。それは、以前にも増して成美の手首が細くなっていた。
僅か数週間で、ここまで手首が細くなってしまうものか。痩せたというより、これはやつれている。
俺は、反射的に尋ねる。
毎日、食事を摂っているのかと――