それも難病に認定されている病気で、今もってその治療方法は見つかっていない。
多少の効果が期待されていると言われている薬を毎日のように投与しているのだが、回復の気配は一向にない。
日に日に弱っていく彼女の姿を見るのは俺にとって辛く、だから〈月光花〉求めた。
いや、求めないといけない。彼女……成美(なるみ)には、生きてほしい。そして、一生一緒にいたい。
彼女とは、俺が就職したら結婚しようと約束している。そのことを話した時、成美は笑っていた。
当時の成美の笑顔を思い出す度に心が締め付けられ、何もできない無力さや悔しい。
「康之(やすゆき)……すまない」
「いや、いいよ。下手に同情されるよりは、いいから。ひとつ頼みがある。情報が、欲しい」
「わかった。協力する」
「……有難う」
俺は素直に、礼を口にしていた。今はどんなに些細な情報であっても欲しく、実在するという確信が欲しかった。
俺が求めている〈月光花〉と呼ばれている幻の植物は、どのような姿形をしていてどのような場所に生えているというのか。
それ以前に、この世界にあるのか――
〈月光花〉を見つけ出す可能性は殆んど零に等しいものだったが、それに縋るしか方法がなかった。現代医学に見捨てられてしまった者は、不特定な物体に頼ると聞く。
無宗教だった者は急に信仰心に目覚め、神の奇跡に縋り毎日のように祈りを捧げているというが、俺は動く。
正直、じっとしているのができない。それに、動かなければ不安で押し潰されてしまう。成美の家族は、半分諦めていた。
残酷だと思われるが、それは仕方がない。
治療方法と効果的な薬が存在すれば家族はどのような手を使っても成美を助けるだろうが、その両方がない。
だから――
死が、救いになってはいけない。
故に俺は、非現実的な物を求める。
「インターネットで、調べるか」
「それが、確実だな」
「なら、講義が終わったら駅前のネットカフェに集合だ。それと、お前はいい。彼女の見舞いに行ってやれ」
そのように言うと友人達は、俺に向かって最高の笑顔を見せた。一瞬「仲間外れ」という単語が脳裏を過ぎったが、彼等の気遣いに気付くと言葉が出ず俯いてしまう。
友人達曰く「桜田は、俺達の大切な仲間だ」ということらしく、だから積極的に俺に協力してくれた。