月光花


 それに俺は自分で自分の胸を刺したというのに、死んではいない。息はしており、心臓は動いている。

 確かに、俺は生きている。

 何故、どうして……それに、血で染まっていた服が綺麗になっている。

 自分の身に起こった出来事が、わからない。

 しかし次の瞬間、俺の脳裏に成美の姿が思い浮かぶ。

 そうだ、成美は――

 俺は慌てて立ち上がると、壁を攀じ登り敷地の外へ出る。

 そしてバイクに跨ると、様子を見る為に病院へ向かった。


◇◆◇◆◇◆


「成美!」

 その言葉と共に、病室の扉を開いた。

 突然の訪問に、成美は驚いている。

 だけど俺の顔を見た瞬間、表情を緩めた。そしてちょっと困ったような雰囲気を湛え、俺に言葉を投げ掛ける。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと……散歩しない?」

「いいわ。今日は、気分がいいの。身体が、軽くなっているような……先程から、スッキリしているわ」

「そ、それは――」

 確かに普段の成美の顔色はいい方ではないが、今は頬に紅がさしている。

 成美の言葉が示すのは、具合が良くなったというもの。この時、俺は柚義の名前を思い出す。

 彼が、何かしたのか。

 しかし、それが正しいか正しくないかはわからない。

 ただの俺の妄想か、それとも違うのか。

 だけど、成美が元気になってくれればそれでいい。俺は口許を緩め彼女に手を差し伸べると、成美はその手を取る。

 その後、成美の具合は少しずつ良い方向へ向かった。

 だが、柚義には二度と出会っていない。