「お初のようだね。何ぞ、よっぽどの悩みでもお有りかい」

 狐姫に促されるまま、前に座った六郎を、千之助はまじまじと見た。
 そして、僅かに目を見開く。

「おお、お前さん、良いモン持ってんなぁ」

 六郎の目を覗き込みながら言う千之助に、え、と狐姫も身を乗り出した。
 六郎が、若干身体を仰け反らせる。

「そんなにかい? まぁあちきも、ちょっと良い気を感じたから、招いたんだけどさ」

「うんうん、さすが狐姫。でかしたぜ」

 嬉しそうに言う千之助だが、六郎には何のことやらわからない。
 怪訝な表情で、千之助を見つめる。

「あのぅ……。あなたは、易者なので?」

 相変わらずきょろきょろと部屋の中を見ながら、六郎が言う。
 確か、表の看板には、そのようなことは書いてなかった。
 ただ『占い館・妖幻堂 各種お悩み解決します』とあった。

「んにゃあ、易者ってわけじゃねぇけどな。ま、格好は気にしねぇでくれ。そんなことよりお前さん、何か悩みがあるようだな? 言ってみな?」

「は、はぁ……。悩みというか……。いやでも、このようなことを見ず知らずのかたに話すのは……」

「何言ってやんでぃ。ここにふらっと入ってきたことが、悩みを聞いて欲しいってことの現れだぜ? 何、料金のことは気にすんな。お前さんは良いモン持ってるからよ、現金は、そう気にしねぇで大丈夫だぜ」

「え?」

「いやいや、とにかく、何か悩んでるようだから、格安にしとくってこった。ここはお悩みを解決するところだしなぁ。悩んでる人は、救ってやりたいのさ。そうさな、現ナマは、え〜っと、これでいいぜ」

 言いつつ千之助は、傍の壺に手を突っ込んで、紙幣を一枚取り出した。
 それを広げて見せる。

「千円?」

「そう。どーもこの通貨に慣れないんでね。よくわからんが、これ一枚で引き受けよう。……金は、な」

 かなり破格の値段だ。
 とりあえず、六郎は財布を出して、千円札をテーブルに置いた。

「毎度ありぃ。じゃ、お悩みをどうぞ」

 受け取った紙幣を再び壺の中に放り込み、千之助は、ずいっと身を乗り出した。
 ちょっと六郎は、怪訝な顔になる。
 格好からして易占師なのに、筮竹を持っているわけでもない。

「うん? ああ、俺っちの格好は気にしねぇでくれよ。でも腕は確かだぜ。ささ、深く考えねぇで、お悩みぶちまけちまいな」

 ずいずい、と迫る千之助に、六郎は引いたが、何か不思議な香りに気付いた途端、ぽつりぽつりと言葉がこぼれる。

「あの、実は……。幼馴染の子に、最近会ったんですけど。その子は今、シェアハウスで暮らしてて」

「ふむふむ。シェアハウス? てぇと何だ、長屋みたいなもんか?」