「こうしておけば、ほれ、こっちのシートにも入っている。いちいち打たなくても連動してるから、時間短縮にもなるし、間違いも減る」

 再び真砂がマウスを動かして、Excelを操作する。

「ほんとだ。すごーい!」

 無邪気に感心する深成は、己の右手が真砂の右手に包まれていることなど気付いていないように、全く気にしていない。

「これぐらいの操作、覚えておけ」

 それだけ言うと、真砂は手を離して身体を起こした。
 そして、横に立っている捨吉に、顔を向けた。

「捨吉。お前が前に提案した企画、通ったぞ。ざっくりとした予定表を作っておいたから、それを元に、プランを具体的に立てていけ」

「えっ! 本当ですか!」

 自席に戻って引き出しから取り出した資料を差し出す真砂に、捨吉は深成の書類を放り出す勢いで駆け寄った。

「お前がリーダーだ。初めてだし、大まかな予定は立てておいたが、それだけだ。後は自分でやってみろ」

「はいっ!! ありがとうございます! 頑張ります!!」

 真砂から貰った資料を押し頂き、捨吉は大きく頭を下げた。
 そして、意気揚々と席に戻る。

「良かったねぇ、あんちゃん。はい、お祝い」

 深成がモニターの向こうから、ずいっとキャンディーポットを差し出す。

「ありがと。いやぁ、今日は良い日だなぁ。こりゃ合コンも上手くいきそう……」

 後半は小声で、ふふふふ、と笑いながら、捨吉は飴玉を一つつまみ出すと、ちらりと少し向こうに座っているあきを見た。
 ばち、と目が合う。
 正確にはあきは、捨吉を見ていたわけではなく、そのさらに前を見ていたのだが。

---すっごぉ〜い、深成ちゃん。課長にあんなことされて、平然としてられるなんて、何て鈍感なのかしらっ! か、課長に手を……手を……---

 意味なく己の右手をさすりながら、あきは上を向いた。
 鼻の奥が熱い。

---課長に手を握られて、後ろから抱き締められたら……。ああ、もう鼻血だけじゃ済まないっ!! 頭に身体中の血が昇って、もうもう、耳からも目からも血が噴き出すわっ!!---

 最早ホラーである。
 そんな邪な思いには気付かず、捨吉はにこりと手を振った。

「六時半ね」

「あ、うん」

 あきも、ひらひらと手を振りかえし、そそくさと席を立って、トイレに急いだ。
 啜っただけでは、間に合わなくなってしまったのだ。

「わらわ、やっぱり無理だわ」

 苦笑いしながら、深成が言う。

「さっきの差し戻しもあるしさ。折角数式入れて貰ったのに、焦ってやったら、またミスしちゃいそうだし」

「え〜、そうなの?」

「うん。わらわが遅くなったら、課長も遅くなっちゃうし。あんちゃんたちで楽しんできて」

 ちらりと真砂が、視線を上げた。

「そっかぁ。深成は可愛いから、あいつが喜ぶと思ったんだけど。しょうがないね」

 捨吉も、尊敬する真砂に迷惑がかかるのは避けたい事態だ。
 あっさりと頷いた。