「そう考えたら、マサ社長はお洒落なモン作ってくれるかもな。生地も何や甘いホットケーキミックスとかで、フルーツとか入れて」

 それは最早たこ焼きではない、という突っ込みは、真砂と清五郎の心の中に留めておく。
 ミラ子社長は、ふと思い付いたように、再びタネを型に流し込んだ。

「ラテ子。チョコ」

「え、デザートですか?」

 ひく、と真砂と清五郎の顔が強張る。

「社長。そろそろ昼休憩も終わりますし、これにて」

 逃げようとする真砂の腕を、ミラ子社長は、がしっと掴んだ。

「まぁまぁ、ゆっくりして行き〜や。いや、これを食べろとは言わんで。やっぱり真砂課長には、食後のコーヒーのが似合うやろ。それにやな、折角燕尾服着て貰ってんのに、このままではあんまりその威力が発揮されてへんなぁと思て」

 そう言って、ミラ子社長はラテ子に向かって、ぱちんと指を鳴らす。

「ミュージック・スタート!」

 ちゃらら〜ん♪と、ムーディな曲が流れ出す。
 ミラ子社長は真砂の腕を引っ張って、部屋の真ん中に進み出た。

「さぁさぁ、清五郎もラテ子と踊るんやでぇ」

 ぽりぽり、と頬を掻いた後、清五郎は、とりあえず立ち上がった。

「上手くリードは出来ませんが」

 言いながらも何気にスマートに、ラテ子の手を取る。
 清五郎は、そつなく何でもこなせるようだ。

「ほら真砂課長。これぐらいなら踊れるやろ」

 簡単なステップを踏みつつ、ミラ子社長が言う。
 しばしミラ子社長のステップを見ていた真砂は、ふぅ、と一つ息をつくと、改めてミラ子社長の手を取った。

「まぁ、先も言ったように、上手くはないですがね」

 ぐい、とミラ子社長を引っ張ると、腰を支えてくるくる回る。

「おお〜。これぞ燕尾服の真骨頂〜」

「ずるい〜。社長、私も〜」

 清五郎と踊っていたラテ子とミラ子社長がチェンジ。

「社長、着物なのに、ダンス上手いですね」

「清五郎こそ、なかなかやるのぅ」

 ひとしきり踊った後、ミラ子社長は出来たチョコたこ焼き(タコなし……と思いたい)を皿に盛った。
 そしてそれを、ずいっと真砂に差し出す。

「あんたのところに、こういうの好きな子がおるやろ」

 にやりと笑う。

「社長にまで知られてるんですか。どんだけ会社で菓子を食ってるんだ」

 渋い顔で言う真砂に、清五郎が、ん? と首を傾げた。
 それに、ちちち、とミラ子社長が檜扇を振る。

「派遣ちゃんや。ええやないの、何でも美味しく食べられるってのは、幸せなことやで。最近はベテランお千代さんが研修でおらんから、遅ぅまで頑張ってるみたいやし、労わったりぃや」

 意味ありげに、ぺしぺしと真砂の肩を檜扇で叩き、ほほほ、と高らかに笑う。

「さぁラテ子。高山建設の社長との接待は、何にしようかね〜」

 楽しそうに言いながらも、ミラ子社長はすでに社長の顔になっているのであった。