「おら、とっとと歩け」

 けらけら笑う二人を連れ出し、手早くタクシーを拾う。
 二人を後部座席に押し込み、自分は助手席へ。

「山里町のほうへ行ってくれ」

 思いきり仏頂面の真砂に、運転手がビビったお陰で、余計な口は利かずに早く目的地に着くことが出来た。
 小さなマンション。
 捨吉の家だ。

「起きろ。着いたぞ」

「んあ? ……俺の家は、山里町の……」

「知っている。前にも送ったことがあるだろうが」

「……ああああ。すみませんっ!」

 がば、と飛び起き、ささっとタクシーから飛び降りる。
 きょろ、と辺りを見回し、自分のマンションを確かめてから、捨吉はまた、がばっと頭を下げた。

「すすすすみません。また俺、送ってもらうハメに……」

「まぁ、粗相をしないだけ、まだマシだ。じゃあな」

 捨吉を降ろし、タクシーは再び走り出す。
 捨吉の家は知っているが、深成の家は知らない。
 ここからは本人に聞かないといけないため、真砂も後部座席に移動したのだが。

「……」

 どうやら車の揺れが、酔いを促進したらしい。
 ぐーすかと、深成は寝息を立てている。

 ただ寝ているだけなら、起こせばすぐに起きるだろうが、酔っぱらってもいるので、起きたところであてにはならない。
 困った、と真砂は頭を抱えた。

「おい、起きろ」

 ゆすゆすと肩を揺すってみるが、深成は薄目を開けて、ちらりと真砂を見た後、へら、と笑ってすぐに目を閉じてしまう。
 真砂はそんな深成の様子をまじまじと観察し、これは無理だ、と結論を下した。

 本気で酔っている。
 無理に揺すって起こせば、悪くしたら気持ち悪くなるかもしれない。
 それだけは避けたい。

「しょうがない。……その辺りで降ろしてくれ」

 運転手に言い、適当なところで、真砂は深成を担いでタクシーを降りた。
 幸いすでに真夜中だし、一応人通りのないところで降りたので、女の子を担いでいても人目はない。
 だがあまりこの状態でうろうろしたくはない。

 真砂は、きょろ、と辺りを見渡すと、目に付いたけばけばしいネオンの建物へと入っていった。