【キャスト】
姉:魔﨡 兄:章親 弟(居候):惟道 章親の彼女:宮
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
朝七時。
すでに食卓についていた章親は、ちらりと視線を上にやった。
毎朝のことだが、二階は静まり返っている。
「……そろそろ起きないとだよねぇ……」
困ったように言う。
その前では、惟道が納豆に牛乳を入れてかき混ぜている。
「……それ、美味しいの?」
「美味いか不味いかはわからぬが、前に健康にいいとTVでやっていた」
そう言って、ぐりぐりとかき混ぜた納豆を、惟道は躊躇いなく口に入れた。
「健康にいいからって、何もそんな気持ち悪いもの食べなくても。どう見ても美味しそうな取り合わせじゃないし」
「別に不味くはない。美味くもないが」
「まぁ惟道が好きならいいけどさ」
「好きではないが、俺が病気になったら章親が困ろう」
「もぅ~。別にそんなこと気にしないでいいんだって」
育ての親を亡くした惟道を引き取ってから随分経つ。
絶対権力者な姉とも仲良く(?)やっているが、いまいち心を開いているのかわからない。
そもそも惟道には人間的感情がほぼないのだから、心を開く以前の問題かもしれないが。
「魔﨡を起こしに行かなくていいのか?」
納豆を平らげた惟道が、ちろ、と視線を上げて言う。
うーむ、と章親は眉間に皺を寄せた。
「いい加減一人で起きてくれないかなぁ」
「章親であれば、さほど手こずることなく起きるだろう?」
「でも、すんなりとはいかないよ」
「では俺が行って来よう」
そう言って、惟道は横の椅子に置いてあったもけもけクッションを手に取る。
その瞬間、何故かクッションが焦ったようにもぞもぞ動いた。
「駄目だよっ。惟道、いきなり毛玉を魔﨡の部屋に投げ込むじゃないか。前それやって、一瞬のうちに錫杖に打たれてぺしゃんこになった毛玉が転がり出てきたの、忘れたの?」
「だから今度は布団の中に入れる」
「そんなことしたら、それこそ毛玉が潰されちゃうよ」
言いつつ、章親は惟道からクッションを取り上げる。
何となくもけもけの毛が濡れている。
泣いているのか。
「しかしいい加減に起こさねば、それこそ雷が落ちるぞ」
「やばいっ」
クッションを放り出して、章親が階段に飛んでいく。
姉の魔﨡は章親が起こさねば起きない。
社会人なのだから自分で目覚ましで起きればいいものを、『電子音が気に入らん』という理由でセットしない。
お陰で毎朝章親が起こさねばならなくなっている。
子供でないのだから、と突っぱねようものなら、文字通り雷が落ちる。
家がなくなるのは避けたいので、従わざるを得ないわけだ。
やがて二階が少し騒がしくなり、何度かしゃらん、しゃらん、と綺麗な音が響いた後、やっとこ魔﨡が降りて来た。
「はぁ、全く面倒臭いのぅ。章親のためとはいえ、この我が毎日毎日働くとは」
「とか言って、魔﨡はほとんどお店に出ないじゃない」
「我が表に出ると、周りがうるさい」
銀色の髪を掻き上げながら、お手伝いの楓が用意したコーヒーを啜る。
魔﨡はデザイン会社を経営している。
ずば抜けた美貌と銀色の髪という派手な外見のため、顧客とのやり取りはもっぱらネット経由の小さな会社だが、何気にかなり儲けているようだ。
一応稀にある飛び込みの客のために、事務所の下に小さな店も構えているが、そこが開くことは滅多にない。
その後支度をし、章親と惟道は大学へ。
姉:魔﨡 兄:章親 弟(居候):惟道 章親の彼女:宮
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朝七時。
すでに食卓についていた章親は、ちらりと視線を上にやった。
毎朝のことだが、二階は静まり返っている。
「……そろそろ起きないとだよねぇ……」
困ったように言う。
その前では、惟道が納豆に牛乳を入れてかき混ぜている。
「……それ、美味しいの?」
「美味いか不味いかはわからぬが、前に健康にいいとTVでやっていた」
そう言って、ぐりぐりとかき混ぜた納豆を、惟道は躊躇いなく口に入れた。
「健康にいいからって、何もそんな気持ち悪いもの食べなくても。どう見ても美味しそうな取り合わせじゃないし」
「別に不味くはない。美味くもないが」
「まぁ惟道が好きならいいけどさ」
「好きではないが、俺が病気になったら章親が困ろう」
「もぅ~。別にそんなこと気にしないでいいんだって」
育ての親を亡くした惟道を引き取ってから随分経つ。
絶対権力者な姉とも仲良く(?)やっているが、いまいち心を開いているのかわからない。
そもそも惟道には人間的感情がほぼないのだから、心を開く以前の問題かもしれないが。
「魔﨡を起こしに行かなくていいのか?」
納豆を平らげた惟道が、ちろ、と視線を上げて言う。
うーむ、と章親は眉間に皺を寄せた。
「いい加減一人で起きてくれないかなぁ」
「章親であれば、さほど手こずることなく起きるだろう?」
「でも、すんなりとはいかないよ」
「では俺が行って来よう」
そう言って、惟道は横の椅子に置いてあったもけもけクッションを手に取る。
その瞬間、何故かクッションが焦ったようにもぞもぞ動いた。
「駄目だよっ。惟道、いきなり毛玉を魔﨡の部屋に投げ込むじゃないか。前それやって、一瞬のうちに錫杖に打たれてぺしゃんこになった毛玉が転がり出てきたの、忘れたの?」
「だから今度は布団の中に入れる」
「そんなことしたら、それこそ毛玉が潰されちゃうよ」
言いつつ、章親は惟道からクッションを取り上げる。
何となくもけもけの毛が濡れている。
泣いているのか。
「しかしいい加減に起こさねば、それこそ雷が落ちるぞ」
「やばいっ」
クッションを放り出して、章親が階段に飛んでいく。
姉の魔﨡は章親が起こさねば起きない。
社会人なのだから自分で目覚ましで起きればいいものを、『電子音が気に入らん』という理由でセットしない。
お陰で毎朝章親が起こさねばならなくなっている。
子供でないのだから、と突っぱねようものなら、文字通り雷が落ちる。
家がなくなるのは避けたいので、従わざるを得ないわけだ。
やがて二階が少し騒がしくなり、何度かしゃらん、しゃらん、と綺麗な音が響いた後、やっとこ魔﨡が降りて来た。
「はぁ、全く面倒臭いのぅ。章親のためとはいえ、この我が毎日毎日働くとは」
「とか言って、魔﨡はほとんどお店に出ないじゃない」
「我が表に出ると、周りがうるさい」
銀色の髪を掻き上げながら、お手伝いの楓が用意したコーヒーを啜る。
魔﨡はデザイン会社を経営している。
ずば抜けた美貌と銀色の髪という派手な外見のため、顧客とのやり取りはもっぱらネット経由の小さな会社だが、何気にかなり儲けているようだ。
一応稀にある飛び込みの客のために、事務所の下に小さな店も構えているが、そこが開くことは滅多にない。
その後支度をし、章親と惟道は大学へ。