「六郎兄ちゃん、心配し過ぎだよぉ。大体、先輩がすぐに連絡してくれるってこと自体が凄いことなんだよ?」

 それだけで十分幸せ、と照れる深成に、六郎はまた、何て良い子なんだ! と吠える。

「わかっただろ。お前よりもこいつのほうが、随分俺のことがわかってるんだ。お前の出る幕ではない」

「待ちたまえ! 私はそういう深成ちゃんの気持ちの上に胡坐をかくような君の態度が気に入らないんだ!」

 深成を引っ張って出て行こうとしていた真砂を、なおも六郎が引き留める。
 真砂が、こそりと深成に耳打ちした。

「なぁ、あいつ、一体何言ってるんだ? 俺、何かお前にしたっけ」

 六郎とは話にならない、と見、直で深成に聞いてみる。
 深成も、困った顔で、う~ん、と唸った。

「そんなことはないはずなんだけど。六郎兄ちゃん、どうしたのかなぁ。わらわ、また何かまずいこと言っちゃったかなぁ」

 ホワイトデーに関して六郎と喋ったのは昨日のことだ。
 そんな六郎が怒るようなことを言った覚えはない。

「何かあいつ、俺が写真送ったのが気に食わんようなんだが」

「ええ? ……ああ!」

 ぽん、と深成が手を打った。
 そしてくるりと六郎に向き直る。

「六郎兄ちゃん。別にあの写真がお返しだ、とは言われてないよ? わらわがそれでもいいと思ってるってだけ」

 説明するが、六郎は納得しない。

「だから! そういう深成ちゃんの優しさに、こいつは胡坐をかいてるんだ。このままだと深成ちゃん、ずっといいようにあしらわれてしまうよ?」

 う~~ん、と深成もほとほと困った顔で真砂を見上げた。

「聞くところによると、君は今まで、彼女としてきた女性に対し、全く優しさを見せなかったそうではないか。見てのとおり、深成ちゃんはまだまだ幼い。全面的に守ってやらねばならんのに、君のような優しさもないような男には任せられるわけはないのだ」

 幼い……といっても十六なのだが。
 微妙な顔で黙り込む深成だったが、その肩に、真砂が腕を回した。

「それは今までの話だろう。そんな奴らとこいつを同列に考えるな。こいつは俺が初めて欲しいと思った女だぜ。お前に言われるまでもなく、他の奴なんて近付けるかよ」

 真砂に抱き寄せられながら、うーわー! と深成は真っ赤になった。
 凄いことを、さらっと言われた。
 真砂は深成の肩を抱いたまま、びし、と六郎に指を突き付けた。

「もちろん、お前もな」

 突き付けた指を、ぱ、と開いて、いかにも邪魔だ、というように、しっしっと手を振る。

「え、えっとぉ。あの、六郎兄ちゃんも、そんなに心配しないで。わらわ、ちゃんと先輩には大事にされてるよ? 十分優しいし。ていうかさ、六郎兄ちゃん、忘れてない? わらわ、ほんとに先輩のことが好きなんだよ? 何度も言ってるじゃん」

「み、深成ちゃん……」

 何気にがっつり六郎の心を抉る深成に、六郎の気力が萎える。
 そこに真砂が追い打ちをかけた。

「というわけで、お前の入り込む余地など、これっぽっちもないということだ」

 これ見よがしに人差し指と親指を、ほんの僅かだけ浮かせて見せ、真砂は最後に鼻で笑うと、深成を連れて教室を出て行った。



「で、お返しは何が欲しい?」

 駅に向かいながら、真砂が深成に聞いた。

「ん? う~ん、わらわはあの写真でもいいんだけどな。六郎兄ちゃんは、あの写真の価値がわかってないよね。先輩が合格したことだって嬉しいし、それをすぐにわらわに送ってくれたっていうのだって、物凄く嬉しいのに」

 てこてこと横を歩きながら言う深成を、真砂は微妙な顔で見た。
 ほんとに何と可愛い奴なんだか。

「……ほんと、あの野郎なんかに渡すかよ」

 ぼそ、と呟き、真砂は深成の手を、ぎゅっと握った。

「じゃあ明日、久しぶりに一日遊ぼうぜ」

「ほんとっ? うわぁい!」

 ぱぁっと深成の顔が輝く。
 その嬉しそうな顔に、真砂は内心くらっとしながら、六郎を排除する決意を新たにするのだった。

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 学生バージョンWD編。
 こっちゃ六郎が頑張ってます。ある意味真砂と深成の接着剤ですなぁ。
 この上なく心外でしょうけど。

 ていうか六郎、ここまで深成一筋だと、この先彼女が出来るか甚だ疑問です。

 真砂も受験が無事終わったわけだし、ここからがっつり濃厚なお付き合いが始まるかもです。
 濃厚っても相手が深成なので知れてますが。

 で、深成はお返しに何貰ったんでしょうね。
 まぁ学生なので、ストラップとかぬいぐるみとかでしょう。

 社会人でも学生でも、この二人はらぶらぶです( ̄▽ ̄)

2016/03/30 藤堂 左近