真砂が風呂から上がると、ソファで深成がぬいぐるみに埋もれていた。

「どこにいるんだ」

「言い過ぎでしょ」

 お気に入りの白くまを、にゃーっと突き出す。
 そして、ずりずりと真砂の場所を開けた。

「えへへ。嬉しいなぁ」

 にこにこと笑いながら、深成は横に座った真砂に、ぺとりと引っ付く。

「ぬいぐるみがいるのといないのとで、そんなに違うのか」

「そうじゃないもん。いや、そりゃぬいぐるみたちと一緒に課長と過ごせるってのも、課長のお家に引っ越したんだなってしみじみ思う要因ではあるけど。課長とずっと一緒にいられるのが嬉しいんだもん」

 真砂にもたれたまま、深成が白くまを撫でる。
 やれやれ、と思いつつも、真砂が腕を深成の肩に回すと、深成は白くまを真砂の膝の上に置いて、抱き付いてきた。

「何だ、珍しいな」

 そういう雰囲気になりやすい状況で、深成のほうから抱き付いてくるなど珍しい。
 ベッドの意図に気付いたのかな、と思った真砂だが、深成は抱き付いたまま、拗ねたように口を尖らせた。

「この時期はわらわ、もやもやしちゃうんだもん。課長がいかにモテるかを、まざまざと見せつけられるし。美味しそうなチョコを目の前にしても食べられないし」

 ははは、と笑い、真砂は深成の頬を撫でた。

「欲しいものがあったら、取っておきゃ良かったのに」

「やだよ。だって、全部課長が他の女の人から貰ったものじゃんっ」

 つーーん! と思い切り顔を背ける深成に笑いながら、真砂は深成の着ているフリースのジッパーに手をかける。

「さすがのお前も、そういうものは嫌なのか」

「わらわだって、やきもちは焼くもの。ていうか課長、何してんの」

 ジッパーを下ろされ、上着を脱がされる。

「えっと、課長、上着がないと寒いよ」

 ソファの上に落ちたフリースに手を伸ばそうとするが、手が届く前に、深成の身体はふわりと宙に浮いた。
 真砂が抱き上げたのだ。

「温めてやるよ」

 耳元で言い、そのまま真砂は寝室に向かう。
 抱き上げられているので、逃げることも出来ず、深成は軽くパニックになった。

---えーとえーと。えっと、これってどういうこと? そりゃ一緒に住むようになったら遠慮はしないって前から言われてるけど! いきなり? いきなりなの? いやそりゃこんなこと、前もって通達はないだろうけどっ! つか、くまさんの着る毛布を拒否したのって、そういうこと? 萎えるって、やる気がなくなるってことだったのっ?---

 寝室までの短い間に、目まぐるしく脳みそが回転する。
 そうこうしているうちに、真砂は肘で寝室のドアを開けた。
 見慣れたベッドに、今日はバスタオルが敷いてある。

---ほ、本気だ……---

 くら、と深成は眩暈を覚えた。

「か、課長……」

 思いっきり怯えた目で見上げると、真砂は、ふ、と笑みを浮かべた。
 そのままベッドに深成を降ろす。

「もう限界」

 それだけ言うと、真砂は深成にキスをした。
 いつもの軽いキスではない。
 少し乱暴に、深成の全てを奪っていく。

 キスだけで、深成がくらくらしているうちに、真砂はシャツのボタンを外していった。
 露わになった胸を、真砂の手が包む。

「……っひゃんっ!!」

 びく、と深成の身体が強張った。
 それを解すように、真砂の手が深成の全身を撫でる。

「……か、かちょ……」

 心臓がばくばく鳴り、息が荒くなるのに、身体からは力が抜けていく。
 抵抗する力もなく、くたりとした深成の身体を一通り愛撫した真砂が、身体を起こした。
 自分も着ていたものを脱ぎ、深成を抱きしめる。

 完全に素肌同士の感触に、深成は不思議な気持ちになった。
 背に腕を回すと、真砂は少しだけ上体を起こして、深成の前髪を掻き上げた。
 そして、キスを落とす。

「ん……課長……」

 首筋にキスされながら深成が呟くと、真砂はちらりと視線を上げた。

「こんなときに、役職で呼ぶな」

「え……だって」

「大体、いつまでも課長じゃないぞ。変わったらどうする気だ」

 そもそも『課長』は俺だけじゃない、と小さく言う。
 一人じゃなくても深成の言う『課長』は真砂のことなのだが、真砂は不満らしい。
 顔を上げた真砂に、深成は、ちゅ、とキスをし、にこりと笑った。

「じゃ、真砂課長」

「役職つけるなって」

「え~、でも……」

「取らないと、痛くするぞ」

 言いつつ真砂の手が、深成の足の間に潜り込む。

「んにゃんっ! ……や、やだっ……真砂っ……」

「ふふ、よし」

 手はそのままに、真砂は笑って深成の頬にキスした。
 そして深成の両足を持ち上げる。

 びくん! と深成が震え、怯えた目を真砂に向ける。

「深成……」

 優しく言い、真砂は腰を落とした。