そして夕方。
 大きな紙袋と、それを入れていた袋、両方いっぱいになった状態で、真砂と捨吉が帰社した。

「うわぁ、凄いお土産だね~」

 何せ中身は深成の大好きなお菓子だ。
 きらきらと目を輝かせるが、そんな深成を横からあきが引っ張った。

「喜んでる場合じゃないわよ。あれ、課長を想うどこぞの女子からの贈り物よ?」

「あ……そっか」

 途端に目の輝きが失せ、しょぼんと項垂れる。
 ちらりと真砂が深成を見た。

「あき。それ、適当に欲しいもの取って、あとはばらまいておいてくれ」

「わかりました。っても課長。年々数が増えますね。ばらまくのも限度があります」

「全部お前が食ってもいいぞ」

「深成ちゃんじゃあるまいし、無理ですよ。太らす気ですか」

「わらわだって、こんなに無理だよっ」

 笑いながら、あきは紙袋の中身を机に出していった。
 大抵のものがきちんと真砂一人のために買ったと思われる、小さな箱だ。

「おお、ゴデバにロハス。うわ、これ限定ものだ」

 楽しそうに箱を見ては、挟まれたカードを引っこ抜いていく。

「課長。これ全部シュレッダーでいいですか?」

「ああ」

 チョコには必ずと言っていいほどメッセージカードがついている。
 実際に名刺を交換したりするのは大抵が男性だ。
 真砂にチョコを渡す女子たちは、たまたまフロアで出会ったとか、担当者の秘書とか、そういった立場なので、自分がどこの誰だかをちゃんと書かないと、真砂に知って貰えないのだ。

 実際はそういう努力も空しく、カードは真砂に読まれることもなく、あっという間にごみ屑と化すわけだが。
 あきは鼻歌を歌いながら、カードに書かれた会社名と名前をエクセルに打ち込んでいく。

「あきちゃん、何してんの?」

 深成はお高そうなチョコの山を、指を咥えて見つつ聞いてみた。

「一応貰ったんだから、お返しはしないとでしょ。お客さんなんだし。ま、実際は社長がしてくれるんだけどね」

 毎年このリストを元に、ミラ子社長が手土産を用意するという。

「凄いね、社長」

「そうねぇ。ま、お客さんだし。それにミラ子社長は個人的な興味もあるみたいだしね」

 ふふふ、と笑う。
 そこに噂のミラ子社長がお出ましになった。

「お~、相変わらず今年も大収穫やなぁ。ほんま、こっちゃ痩せる間がありまへん」

 言いつつ、満足そうにチョコの山を眺める。

「あきちゃんもお千代さんも、好きなもん取ったか? あ、今年は派遣ちゃんがおるやないか。良かったなぁ、あんた。チョコ食べ放題やで」

 けらけらと笑い、ミラ子社長はあきからリストを受け取った。
 それをじっと見、目を細める。

「ふ~ん。相変わらずモテモテやなぁ。清五郎課長とええ勝負や」

 二枚のリストを交互に見ている。
 千代が、ちょっと社長を見た。

「さて。あんたら好きなん取ったかて残るやろ? 残ったやつは社長室に持ってきてな。マサ社長にど~んと送り付けたんねん」

「社長。マサ社長だって限度があるでしょう」

「何言うてんねん。あんた、あの社長の甘いモン好きを知らんな? あんこだけでご飯三杯は軽い人やで。映画館のキャラメルでろでろのポップコーンLは予告のうちに食べ終わるしな。これ全部なんて一日やで」

「……間違いなくバレないからって、あんまり好き放題言わないでくださいよ」

「付き合わされるラテ子は可哀想かもやけどな」

 あきの忠告をさらっと流し、ほほほ、と高らかに笑うと、ミラ子社長は、ぴっと懐から分厚い封筒を取り出した。

「うちから社員の皆にバレンタインのプレゼントや。バレンタインやから男性陣だけやけどな、女子陣は男性陣を捕まえりゃええ」

 そう言って、男性陣に配るように、と、真砂に封筒の中から人数分に束ねたチケットを渡す。

「ペアディナーチケットや。それぞれお目当ての子ぉ誘って行っておいで」

「ありがとうございます」

 受け取ったチケットをざっと見ると、お高そうなレストランの名前がずらりと並んでいる。
 何軒かから選べるようだ。

「とっとと予約しーや。当日は日曜やし、混むかもやで」

 ほほほ、と笑いながら、ミラ子社長は扇を振り振りフロアを出て行った。