そして年末。
 深成は楽しそうに真砂の家の中を掃除していた。

「ねぇ課長。明日はさ、わらわ、一旦帰ったほうがいいかな」

 ベランダで干していた布団を取り込んでいる真砂に声をかける。
 会社が休みに入ってすぐから、深成はいつものように真砂の家に泊まっている。
 大掃除などでちょこちょこ帰る以外は、ずっと一緒にいるのだ。
 ……でもいまだに何もないが。

「さすがにさ、ここから一緒に出て行くわけにはいかないよね」

 明日はスキー旅行だ。
 清五郎が順に拾っていく。
 一緒にいたほうがピックアップには便利だろうが、同じ家から現れるのは如何なものか。

「駅のロータリーだから、別にいいだろ。大体朝早いんだから、一旦帰る暇なんかないぞ」

「え、お家まで来て貰うんじゃないの?」

 深成が言うと、真砂は怪訝な顔をした。

「俺の家を知ってんのはお前だけだと、前に言ったろ。それにこの辺りはややこしいし、下まで来て貰っても十階からだと結構あるし。面倒だからロータリーにした」

「そうなんだ」

 てっきり清五郎は真砂の家を知っているのだと思っていた。
 だが確かに前に、深成しか知らないとも言っていた。
 本当だったのだ。

「早めについておけば、一緒に行ったってわからんだろ」

「そ、そだね」

 どうやら真砂は、深成を帰す気はないらしい。
 ちょっともごもごと、深成は赤くなった。



 十二月三十日。

「おい、起きろ」

 朝の四時半に、真砂は隣で寝ている深成を揺り起こした。
 眠そうに目を擦りながら、深成が真砂を見上げる。

「……寒い……」

 ごそごそと、布団に潜り込もうとする。

「こら。とっとと起きないと置いて行くぞ」

「う~……。眠いよぅ」

 言いつつ、深成はぺとりと真砂にくっついた。
 寒いからだろう。
 そんな深成から、真砂は布団を剥ぎ取った。

「さ、寒いじゃん~~っ」

 ぶるぶるっと震え、深成はますます真砂にしがみつく。
 真砂が上体を倒して深成に顔を近付けた。
 そのままキスをする。

「~~っ」

 真砂の下で、深成がぎゅうっと目を瞑る。
 しばらくしてから、ようやく真砂は唇を離した。

「目ぇ覚めたか?」

「……課長、相変わらず助平なんだから」

「当たり前だろ。男なんだから」

 しれっと言う。

「起きないと、もっと凄いことするぞ」

「にゃーーっ! あ、朝から何するのーーーっ!」

 じたばたとベッドの上で暴れているうちに、時間は過ぎて行くのであった。



 六時丁度に、ロータリーに清五郎の車が入って来た。

「おはようございまぁ~す」

「おはよう派遣ちゃん。走って来たのか?」

 赤いほっぺで若干息が上がっている深成を見て、清五郎が言う。

「わざわざ真砂の駅まで来なくても、家まで迎えに行ったのに」

「ん、でもわらわん家、ちょっと山に入らないといけないし。結構寄り道になっちゃうでしょ」

 えへへ、と笑って誤魔化す。
 朝のじゃれ合いで予定時間ぎりぎりになったため、駅まで走って来たのだ。
 真砂は体力の違いか、息も切れていない。

「おはよう、千代」

 車のドアを開けながら、助手席にいた千代に挨拶する。
 千代はシートベルトを外して、一旦外に出た。

「おはようございます。課長はどうぞ、助手席に乗ってくださいな」

 後部座席に千代と深成が乗り込み、車はその後さらにあきと捨吉を拾って、一路山を目指した。