深成のマンションに向かいながら、清五郎はちょっと周りを見回した。

「結構な山の中だなぁ。この辺だったら駅も遠いだろ? 女の子一人じゃ、危ないんじゃないか?」

「そうかなぁ。慣れてるから、あんまりわかんない」

 すでに日は沈んでいる。
 元々向こうを出たのが昼前だったし、その後高速に入る前にお昼を食べ、サービスエリアにも寄った。
 そして一番東から戻ってきているので、随分時間が経ってしまったわけだ。

「あ、その辺りでいいよ。その先のマンションだから」

「あそこか。どっちにしろ方向転換するから……」

 深成のマンションの前の道に出たところで、あれ、と深成は少し身を乗り出した。
 マンションの前に、車が停まっている。

「ん? あれ、真砂の車じゃないか」

 車を運転する者は、車を見分けるのも早い。
 清五郎が気付き、その車の後ろに自分の車を停める。
 同時に、前の車のドアが開いて、真砂が降りて来た。

「真砂。どうしたんだ」

 清五郎も車から降りる。
 え、大丈夫なの、この状況、と思いつつ、深成もそろ、とドアを開けた。

「荷物があるからな。どうせ通り道だ」

 何てことのないように、真砂がトランクを示して言う。
 飲み会で何度も深成を送っている真砂は深成の家も知っているだろうし、西から来たら真砂の家のほうがここより先になるので、通り道なのも嘘ではない。
 理由としては、おかしいところはないのだ。

「そうか。真砂も今帰って来たのか?」

「いや……。ちょっと待ったが。お前に連絡しようにも、運転中だし気付かんだろ」

 さすがに深成の携帯を知っていることは言わない。
 特に深く突っ込むことはせず、清五郎は真砂の車を見た。

「あれ、そういえば、ゆいは?」

 清五郎も真砂がわざわざゆいを家まで送るとは思っていない。
 だが東寄りのどこかの駅で降ろすのであれば、まだいるはずなのだが。

「ああ、俺はどこで捨てても良かったんだが、あきが自分のところで降ろした」

「あきちゃん? でも確か、捨吉のほうが先だろう? よくそこで、あいつが降りなかったな」

「凄い喧嘩してたぜ。捨吉のところっつっても、駅前でいいっつーから、ロータリーで降ろしたんだが。そこで、まぁ……あきとあいつがな」

 捨吉の最寄り駅のロータリーで、案の定ゆいは降りようとしたらしい。
 そこであきが爆発したのだという。
 助手席から降りると、ゆいを投げ飛ばす勢いで後部座席にぶち込んだそうだ。

 さらにそこで言い争いがしばし続き、さらに諦めないゆいが、あきを押しのけて降りようとしたり、それをあきが押し止めたり。
 相当な攻防があったらしい。

「へー……。あのあきちゃんが、そんなに怒ったのか」

「俺もちょっとびっくりした。でもお蔭でこっちもすっきりしたぜ。だから心ゆくまで対決させてやった」

 東のほうから送って来た清五郎と深成よりも、通常であれば真砂のほうが随分早くに帰れたはずだ。
 だがそんなに長い間待っていないということは、かなりの時間、あきとゆいが喧嘩していたということになる。
 普段の真砂であれば、そんな二人を待つことなどないだろうが、真砂も相当頭に来ていたのだろう、あきの肩を持つ形で、付き合ってやったらしい。

「しかし、そんな大喧嘩した二人を同じところで降ろして大丈夫なのか?」

「大丈夫……なんじゃないか? 最後は何か、泣き喚いてたしなぁ」

「……ゆいが、か? 鬱陶しい奴だなぁ」

「で、結局捨吉を降ろしてしばらく走ったところで、あきと降りることに同意したから、そこで降ろしてきた」

 いくら喧嘩したあきだとしても、その状態のまま真砂と二人にされるほうが避けたい事態だったのだろう。
 当たり前だが慰めてくれるような男ではないし、女の子が泣いているからといって、おろおろする男でもない。
 泣いていようが関係なく、その辺の最寄り駅で捨てられるのがオチだ。