「うう~……。怖いぃ~~」

 清五郎のシャツを掴みながら、深成が不安げに言いつつ、きょろきょろしながら歩いている。
 真砂だったら、おそらくもっと張り付いていただろうが、やはり深成だって誰にでもくっつくわけではないのだ。

 が、怖いものは怖い。
 清五郎のシャツを掴む手は、可哀想になるほど、ふるふると震えている。

「怖がりだなぁ。ほら、そんなきょろきょろしてると、足元が危ないぞ」

「だ、だってやけに暗いし。わらわ、暗いだけでも怖いし」

「まぁ町と違って灯りはないしな。でもその分、星がよく見えるぜ」

 言われて顔を上げると、空には町ではお目にかかれない満点の星。
 うわぁ、と深成の顔が輝いた。

「ははっ、単純だな。真砂もそういうところが好きなのかな」

 いきなりなことに、深成は明らかに狼狽えた。

「ええええっ! あ、あのっ。わ、わらわは別に、課長とは何にも……」

 真っ赤になって、わたわたと言う。
 暗いので、顔色はわからないかもしれないが、鋭い清五郎は意味ありげに目を細めた。

「ん? 何を深読みしてるんだ? 派遣を雇ったことからして、真砂が深成ちゃんを気に入ってることは明白だぜ。当たり前だろ、俺だって気に入らない奴を雇ったりしないぜ」

 あ、何だ、と、どっと深成の身体から力が抜ける。

「ま、真砂が人を気に入るってこと自体が珍しいことだけどな」

「皆そう言う。何か真砂課長って、欠陥人間みたい」

「ははは。そうは言わんが、人より感情の起伏は乏しいかもな。結構何に関しても無関心だろ。あのお千代さんに迫られても落ちないし」

 ちら、と深成は、清五郎を見上げた。

「清五郎課長は、千代を好いてるの?」

 直球で聞いてみても、先の深成のように慌てることなく清五郎は笑みを向ける。

「もちろん。お千代さんを嫌う男は、いないと思うね」

 深成は微妙な顔で清五郎を見た。
 やはりこの清五郎の本心はわからない。
 何を言ってもさらりと爽やかにかわされてしまう感じだ。

「清五郎課長もさ、そう思うなら、ちゃんと千代に言わないと。誰かに取られちゃうよ」

「そうか。でもまぁ、幸い真砂は派遣ちゃんのほうが好きみたいだしな」

 攻撃してみても、さらりと反撃される。
 結局深成は赤くなって視線を逸らせた。

 その目が、ふと前方の藪に吸い寄せられた。
 と、がささっと藪が騒ぐ。
 ビビった深成が、こそりと清五郎の後ろに隠れたとき、いきなり何かが藪から飛び出してきた。

「んにゃっ!」

 驚いた深成だったが、すぐにそれが捨吉だとわかり、叫び声を呑み込む。

「捨吉? どうしたんだ?」

 清五郎が小道から外れた藪から飛び出してきた捨吉に言う。
 苦しそうに、ぜぃぜぃと肩で息をしている捨吉は、やけに服が乱れている。
 しかも涙目だ。

「あんちゃん、どうし……」

 清五郎の後ろから、捨吉を覗き込みながら言った深成の声が途中で止まった。
 視線は捨吉が飛び出してきた藪に釘付けだ。

 清五郎がそちらを見ると、向こうのほうから藪が、がさがさと揺れてくる。
 何かがこちらに向かっているようだ。

 ずず、がさがさ、ずず、がさがさ、と不気味な音を立てて近付いてきたモノは、手前で一旦止まると、ばっと一気に飛び出してきた。
 髪を振り乱し、葉っぱにまみれた化け物が、捨吉に襲い掛かる。

「にゃーーーーっっ!! おばけーーーーーっ!!!」

 深成が金切り声を上げ、清五郎に飛びつく。
 と同時に。

「どうした!?」

 後ろから、深成が今最も求める声がした。
 はっと見ると、真砂が走ってきている。

 真砂は深成が心配で、そう間をおかず、とっとと追って来たのだ。
 深成の相手が羽月であったら、もっと早く追って来ただろう。

「かっかちょーーーっ!!」

 泣きながら、わたわたと手を伸ばす深成だったが、次の瞬間、迫って来たモノに、どかーん! と突き飛ばされた。

「派遣ちゃんっ」

 慌てて清五郎が掴もうとするが、哀れ小さい深成は、見事に吹っ飛ばされて飛んで行く。

「す~て~き~ち~くぅ~ん……」

 深成を突き飛ばしたモノは、その勢いに巻き込まれて倒れた捨吉に覆い被さる。

「お、お前、ゆいか」

 足元の惨劇(?)に呆気に取られていた清五郎が、気付いたように言った。