実家に帰ったことで大分気持ちが解れたのか、城では食事も進まなかった深成だが、一通り粥を食べ終えると、ようやく笑顔も出るようになった。

「美味しかった。あんちゃん、ありがとう」

「良かった。……頑張れそう?」

 膳を下げながら、捨吉が小声で聞く。
 もう直接話すこともままならない関係だが、今は真砂が許している。
 それでも遠慮があり、捨吉はひそひそと声をかけた。

「辛いこともあるかもしれないけど、上様の寵があるんだ。それを誇りに、堂々としてるんだよ」

「うん……。わらわ、上様のことは好きなの。ずっと一緒にいてくださったら、どれだけ心強いか……」

 たった一人で大奥に上がった深成には、真砂しか頼る人がいないのだ。
 そしてその真砂のためにも、やはりやるべきことは一つである。

「あんちゃん」

 き、と深成が、捨吉を見る。
 来た時とは打って変わって、強い瞳だ。

「わらわ、頑張って上様のお子を産む」

 にぎ、と拳を握りしめて、深成が言う。
 そして、清五郎と縁側に座っていた真砂に駆け寄ると、がば、と倒れ込むように抱き付いた。

「何だ、どうした」

 深成を受け止めながら言う真砂を、深成は上目遣いで見上げた。

「上様。わらわも、早く上様のお子が欲しゅうございます」

 きっぱりと言う深成に、僅かに真砂の目が見開かれた。
 が、すぐに破顔し、深成を抱き締める。

「覚悟が決まったか?」

 真砂の腕の中で、こくりと深成が頷く。

「それに、わらわは上様をお慕いしてます。愛するおかたのお子を望むのは、自然なことでしょう? それが上様のおためにもなるのなら、なおさらです」

「ふふ。よく言った」

 ぎゅうっと深成を抱き締める腕に力を入れ、真砂はそのまま、畳に倒れ込んだ。
 そして強引に、唇を合わせる。

 清五郎が、そろ、と腰を上げた。
 部屋の隅で固まっている捨吉にも、さがるように合図する。

「あ、あの。や、夜具とか……敷かないでも、いいんですかね……」

 回廊を少し歩いてから、赤い顔でおろおろと捨吉が言う。

「必要ないだろう。今そんなことしに戻ったほうが、返って怒りを買いそうだぜ。ふふ、それにしても……」

 回廊で立ち止まり、清五郎は、ちらりと振り返った。

「あの上様が、あれほど嬉しそうな顔をなさるとは。とんだ拾い物だったな。捨吉、感謝するぞ」

 ぽん、とまだ落ち着かない捨吉の背を叩き、清五郎は不自然なほど爽やかに笑うのだった。

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 大奥編続きです。……しまった、あきちゃんの妄想がない!( ̄▽ ̄)
 真砂と深成のらぶらぶに重点を置いてしまった。
 こういうところでしか甘い話を書かないから、どうしてもそっち寄りに。

 大奥は難しい。
 はっきり言って、誰も知らない世界なわけですよ。
 調べたところで、実際知ってる人はいないわけだから、研究してても結局憶測なんですよね。

 大奥を題材にする場合は、こういうお遊びに止めたようがいいですね。
 多分深成の里下がりなんて許されないよ。

 さていつもの深成よりは、今回随分『真砂が好き!』アピールしているような。
 いつもは、しててもやっぱりお子様だから、真砂も手を出さなかった(?)わけですが、今回は深成から誘って、ちゃんとやってます( ̄▽ ̄)

 ようやく真砂の欲望が満たされる。長かったな。
 そして清五郎は、黒清五郎であっても爽やかです( ̄ー ̄)

2015/04/11 藤堂 左近