その間それこそ千代でも代わりに召しておけば良かったのに、真砂はずっと深成を寝所に呼んでいた。
 傷の具合を見、ちょっとでも深成が痛がったら抱かなかったのだ。

 その間、八日間。
 二日前に、やっと真砂は深成を抱いた。

---いやぁ、驚いたわ。あの上様が、八日間も待つなんて。どうせ痛い目に遭うんだから、気にしないで抱いちゃえば良かったのに---

 案の定、二日前、深成は泣き喚いた。

---ま、痛みの種類が違うしね。上様も、あれに関しては止めなかったし。ふふふ、でも上様、全然違ったわ。止めなかったけど、気遣ってはいたし。千代姐さんのときとは、全然違ったわ---

 思い出しては悦に浸る。

---それに昨夜はまた……。すっかり怯える深成ちゃんを宥めつつ、優しく優しく抱いてたしね! いいものが見れたわぁ~~!!---

 思い出すたびに頬が緩む。
 実際は見たわけではないのだが、リアルに想像しているので、まるで見たかのように、ばっちり記憶している。
 この記憶力の良さで、不寝番に抜擢された、ともいえるあきなのだった。



 ある日あきが回廊を歩いていると、庭の隅に、小さく蹲った深成を見つけた。

「どうしたの」

 庭に降りて近づくと、深成はくるりと振り向いた。
 目が真っ赤だ。

「わらわ、もう帰りたい」

 蹲ったまま、しくしくと泣きだす。
 どうやら真砂に愛され過ぎて、他の奥女中から苛められているようだ。

「何言ってるのよ。折角やっと上様の寵を得られたってのに。これでお子を生せば、晴れてお腹様よ?」

 大奥は退屈なのだ。
 この上なく面白い妄想の種を、易々と逃していいものか。

 清五郎に言い含められていることもある。
 あきは深成の横にしゃがみ込んだ。

「そんなの、どうでもいい。みんなみんな意地悪だし。わらわの大事なうさちゃん、隠されちゃったし」

 えぐえぐと泣きじゃくる。
 身体に傷をつけるわけにはいかないので、大奥の苛めは陰湿だ。

「あんちゃんに会いたいよぅ~」

 うわぁん、と泣き続ける深成に、あきは、う~む、と考えた。
 可哀想だが、残念ながら願いは聞き入れられない。

「無理よ。大奥は、一旦入ったら出られないの」

「やだ! 逃げたい」

「逃げたらそれこそ、死罪になっちゃうかもよ? 捨吉さんにも累が及ぶわ」

 ひく、と深成の顔が引き攣った。
 項垂れて、ぼろぼろと涙をこぼす。

「ねぇ、深成ちゃんは幸運なのよ。上様の寵があるんだから」

 慰めるように言うが、深成はしょぼんと項垂れたまま、涙を拭きつつ部屋に戻って行った。